ヘイトクライムとは
ヘイトクライム(憎悪犯罪)とは、暴行、放火、器物損壊などの犯罪を、被害者の属する集団(人種、民族、宗教、性的指向、性自認、障害など)への偏見や敵意を動機として行うことをいいます。新しい犯罪類型というより、既存の犯罪に偏見の動機が加わった場合に、それを重く評価する考え方です。
📌 ひと目でわかる
- 構成
- 既存の犯罪+偏見の動機
- 保護される属性
- 人種、宗教、性的指向、障害など
- 扱い方
- 独立の罪、または量刑の加重
- 課題
- 動機の立証
ヘイトスピーチとのちがい
| 項目 | ヘイトクライム | 혐오표현 | ヘイトスピーチ |
|---|---|---|---|
| 対象となる行為 | 暴行・放火など、それ自体が犯罪の行為 | 発言・文書・投稿などの表現 | |
| 処罰 | 多くの国で刑を加重 | 国によって大きく異なる(表現の自由との調整) |
なぜ重く扱うのか
ヘイトクライムは被害者本人だけでなく、同じ属性をもつ人びと全体に「次はあなたかもしれない」というメッセージを送ります。地域に恐怖が広がり、報復や対立を招きかねないことが、刑を重くする根拠とされます。「内心を罰するのか」という批判もありますが、アメリカ連邦最高裁は1993年のウィスコンシン州対ミッチェル事件で、動機による量刑の加重を合憲としました。
各国の制度
- アメリカ:1990年の憎悪犯罪統計法でFBIが統計を取りはじめ、2009年のマシュー・シェパード&ジェームズ・バード・ジュニア憎悪犯罪防止法で、性的指向・性自認・障害も連邦の対象に加わりました。
- イギリス:人種・宗教・障害・性的指向・トランスジェンダーへの敵意が示された場合、裁判所は刑を加重しなければなりません(2020年量刑法)。
- 日本:2016年のヘイトスピーチ解消法は罰則のない理念法です。川崎市は2019年の条例で、一部の差別的言動に刑事罰を設けました。2021年に京都府宇治市のウトロ地区で起きた放火事件では、判決が在日コリアンへの偏見にもとづく動機を指摘し、ヘイトクライムをめぐる議論が広がりました。ただし刑法に加重の明文規定はなく、動機は量刑の中で考慮されるにとどまります。
- 韓国:日本と同じく加重規定はなく、包括的差別禁止法の議論とあわせて立法の必要性が指摘されています。
ヘイトクライムは統計に表れにくい犯罪です。被害者が報復や身元の露見を恐れて届け出なかったり、捜査機関が動機を記録しなかったりすると、「ただの暴行事件」として処理されてしまうからです。そのため多くの国は、法整備とあわせて動機の記録と統計づくりから始めています。
よくある質問
- 日本でヘイトクライムとして重く罰せられますか?
- 独立した罪名や加重規定はなく、既存の犯罪として処罰され、動機は量刑で考慮されます。
- ヘイトスピーチだけでもヘイトクライムになりますか?
- いいえ。表現の問題はヘイトスピーチとして別に扱われ、ヘイトクライムには暴行などの犯罪行為が必要です。
参考文献
- Matthew Shepard and James Byrd, Jr. Hate Crimes Prevention Act, 18 U.S.C. § 249 (2009).
- Hate Crime Statistics Act of 1990, 28 U.S.C. § 534 note (FBI, fbi.gov).
- UK Sentencing Act 2020, ss. 66–67.
- 日本「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(2016年).
- 川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例(2019年12月制定).
- 中华人民共和国刑法 第二百四十九条、第二百五十条.
