信認義務とは
信認義務(fiduciary duty、フィデューシャリー・デューティー)とは、他人の財産や利益を信頼してまかされた人(受託者)が、まかせた人の利益のために誠実かつ慎重に行動しなければならない義務です。英米の信託法で発展した考え方で、会社の取締役、信託の受託者、資産運用会社、弁護士などが代表的な担い手です。日本法では、善管注意義務と忠実義務としてあらわれます。
2つの中心的な義務
| 義務 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 注意義務(duty of care) | 合理的な人なら払うはずの注意をつくす | 十分な情報なしに巨額の投資を決めれば違反になりうる |
| 忠実義務(duty of loyalty) | 自分や第三者の利益より、まかせた人の利益を優先する | 会社の機会の奪取、利益相反取引 |
会社法330条により、会社と取締役の関係には委任の規定が適用され、取締役は民法644条の善管注意義務を負います。さらに会社法355条は、法令・定款・株主総会の決議を守り、会社のため忠実に職務を行う忠実義務を定めています。最高裁(1970年の八幡製鉄政治献金事件判決)は、忠実義務は善管注意義務を敷衍し明確にしたもので、別の高度な義務ではないと述べています。
金融の世界のフィデューシャリー・デューティー
日本では2017年に金融庁が「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表し、銀行や証券会社、運用会社に、手数料のしくみの説明や利益相反の管理など、顧客の利益を第一に考える姿勢を求めました。「フィデューシャリー・デューティー」という言葉が一般に広まったきっかけです。
信頼してまかされたからこそ、重い義務を負います。ふつうの契約の当事者はそれぞれ自分の利益を追求してかまいませんが、信認関係では情報と権限が一方に集中しています。だから法は、まかされた側に「自分の利益よりあなたの利益」を求めるのです。
経営判断の原則
取締役が判断のたびに結果責任を問われれば、だれもリスクをとらなくなります。そこで、判断の過程と内容に著しく不合理な点がなければ責任を問わない経営判断の原則が、アメリカの判例をもとに日本の裁判例でも採用されています(最高裁2010年アパマンショップ事件判決など)。一方、デラウェア州最高裁は1985年の*Smith v. Van Gorkom*判決で、十分な検討なしに合併を承認した取締役会の注意義務違反を認めました。
各国との比較
| 国 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 韓国 | 商法382条・382条の3 | 2025年改正で、取締役の忠実義務の対象を「会社」から「会社および株主」に拡大 |
| アメリカ | 州会社法と判例(デラウェア州など) | duty of care、duty of loyalty、経営判断の原則 |
| 中国 | 公司法(2023年改正)180条 | 忠実義務と勤勉義務、実際の支配者にも適用 |
よくある質問
- 善管注意義務と忠実義務はちがうものですか?
- 判例は、忠実義務は善管注意義務を具体化したもので別の義務ではないとしていますが、学説では別の義務と考える立場もあります。
- 韓国の2025年改正とは?
- 取締役が会社だけでなく株主に対しても忠実義務を負い、すべての株主を公平に扱うべきことが明文化されました。
- 義務に違反するとどうなりますか?
- 会社や第三者に対する損害賠償責任(会社法423条・429条)を負い、場合によっては特別背任罪など刑事責任も問題になります。
参考文献
- 대한민국 「상법」 제382조 제2항, 제382조의3(2025. 7. 22. 개정·시행), 「민법」 제681조.
- 日本「会社法」第330条、第355条、「民法」第644条.
- 《中华人民共和国公司法》(2023年修订)第180条.
- Smith v. Van Gorkom, 488 A.2d 858 (Del. 1985).
- Frankel, T. (2011). Fiduciary law. New York: Oxford University Press.
