修復的司法とは
修復的司法(restorative justice)とは、犯罪を「国の法律に違反した行為」である前に「人と関係に生じた害」ととらえ、被害者、加害者、地域社会がともに参加して、害を回復し再発を防ぐ方法を探る考え方です。「修復的正義」とも訳されます。アメリカの犯罪学者ハワード・ゼアが1990年の著書『Changing Lenses』(邦題『修復的司法とは何か』)で「レンズを変えよう」と提案し、広く知られるようになりました。
- 意味
- 害の回復と関係の修復を中心とする司法
- 代表的な論者
- ハワード・ゼア(1990)
- 参加者
- 被害者、加害者、家族と地域社会
- 主な方式
- 被害者加害者対話、家族集団会議、サークル
応報的司法との違い
| 問い | 応報的司法 | 修復的司法 |
|---|---|---|
| 何が侵害されたか | 国の法 | 人と関係 |
| だれが中心か | 国家と被告人 | 被害者、加害者、地域社会 |
| 何をすべきか | 罪に見合った刑罰 | 害の回復と責任の実行 |
| 被害者の役割 | 主に証人 | 話し合いの当事者 |
刑罰の目的についての理論は刑罰理論(応報と予防)でまとめています。
主な方式
- 被害者加害者対話:訓練を受けた進行役のもとで両者が会い、被害と責任について話し合います。
- 家族集団会議(ファミリー・グループ・カンファレンス):加害少年の家族、被害者、地域の人々がともに今後の計画を立てます。ニュージーランドが1989年の児童・青少年・家族法で少年司法の中心にすえたことで知られるようになりました。
- サークル:輪になって座り、順番に話す方式で、学校での対立の解決にも使われています。
日本の取り組み
日本には修復的司法を正面から定めた法制度はありませんが、近い考え方の取り組みがあります。2023年12月からは、刑の執行段階等における被害者等の心情等の聴取・伝達制度が始まりました。被害者や遺族が希望すると、刑務所や少年院の「被害者担当官」が心情を聞き取り、受刑者や在院者に書面を読み上げて伝えます。保護観察中の加害者に被害者の心情を伝える制度も以前からあります。民間でも、少年事件の被害者と加害者の対話を支援する団体が活動しています。
効果についての研究
被害者と加害者が向き合うと、本当に何かが変わるのでしょうか。ストラングら(2013)がイギリス、アメリカ、オーストラリアのランダム化比較試験10件(加害者1,879人)を分析したところ、対面の修復的対話に参加した加害者は、通常の刑事手続のみの加害者より、2年間の再犯がやや少なくなりました。被害者は事件の扱いへの満足度が高く、誠実な謝罪を受けたと感じ、報復感情や心的外傷後ストレス症状も少なくなっていました。
ただし、これは被害者と加害者の双方が自発的に同意した事件に限った結果である点が重要です。
課題と論点
- 被害者に和解を強いてはならない。同意のない対面は二次被害になりえます。
- 力の差が大きい事件(DVや性暴力など)では慎重であるべきだという指摘が多くあります。
- 示談金の交渉にすり替わらないよう、手続と進行役の専門性が重要です。
少年非行の原因については少年非行の理論も参考にしてください。
よくある質問
- 修復的司法とは?
- 犯罪を人と関係への害ととらえ、被害者・加害者・地域社会がともに害の回復と再発防止を目指す司法の考え方です。
- 修復的司法と応報的司法の違いは?
- 応報的司法は罪に見合った刑罰に重点を置き、修復的司法は害の回復、加害者の責任の実行、関係の修復に重点を置きます。
- 日本に修復的司法の制度はありますか?
- 正面から定めた法制度はありませんが、2023年12月に始まった心情等の聴取・伝達制度など、近い考え方の取り組みがあります。
参考文献
- Zehr, H. (1990). Changing lenses: A new focus for crime and justice. Herald Press.
- Strang, H., Sherman, L. W., Mayo-Wilson, E., Woods, D., & Ariel, B. (2013). Restorative justice conferencing (RJC) using face-to-face meetings of offenders and victims: Effects on offender recidivism and victim satisfaction. A systematic review. Campbell Systematic Reviews, 9(1), 1–59. https://doi.org/10.4073/csr.2013.12
