緊張理論とは
緊張理論(strain theory)とは、社会が大切にする目標と、それを手に入れるための正当な手段とのずれ、あるいは個人がかかえるさまざまなストレス(緊張)が、犯罪や逸脱を生むと考える犯罪学の理論です。社会学者ロバート・マートンの1938年の論文「社会構造とアノミー」から始まり、ロバート・アグニューによる1992年の一般緊張理論へと発展しました。
- 意味
- 目標と手段のずれや個人の緊張が逸脱を生むという理論
- 出発点
- マートンのアノミー論(1938)
- 発展
- アグニューの一般緊張理論(1992)
- 関心
- 社会の構造と個人の感情が犯罪につながる過程
マートンのアノミー論
マートンは、アメリカ社会はすべての人に「富と成功」という文化的目標を強くすすめる一方で、教育やよい仕事のような制度的手段は平等にあたえられていないと考えました。このずれが、規範が力を失った状態、つまりアノミーを生むと説明しました。
| 適応様式 | 文化的目標 | 制度的手段 | 例 |
|---|---|---|---|
| 同調 | 受け入れる | 受け入れる | まじめに勉強し、働いて成功をめざす |
| 革新 | 受け入れる | 拒否する | 詐欺や窃盗など、違法な手段で富を求める |
| 儀礼主義 | 拒否する | 受け入れる | 成功はあきらめたが、規則だけは形式的に守る |
| 逃避主義 | 拒否する | 拒否する | 社会からしりぞく(薬物依存など) |
| 反抗 | 拒否してあたらしい目標に置きかえる | 拒否してあたらしい手段に置きかえる | 社会運動や体制の変革をめざす |
アグニューの一般緊張理論
同じような苦しさをかかえていても、なぜ一部の人だけが犯罪に向かうのでしょうか。アグニューは、緊張を「目標が達成できないこと」だけにかぎらず、大切なものを失う経験(失恋、家族の死)や、いやな刺激にさらされる経験(虐待、いじめ)にまで広げました。そして、こうした緊張が怒りなどの否定的な感情を生み、それに対処する正当な方法や支えが足りないときに、非行につながりやすくなると考えました。
そのため、同じ緊張をかかえていても、家族や友人の支え、問題解決の力、自己コントロールの力によって、結果は変わりえます。
日本の少年非行と法律
日本の少年法は、2022年4月の改正法施行により、18歳・19歳を「特定少年」と位置づけ、17歳以下の少年とは異なるあつかいをするようになりました。緊張理論は、勉強のプレッシャー、家庭の問題、いじめの被害などの緊張をへらし、相談できる人や居場所といった対処の資源をふやすことが、非行の予防に大切だという根拠になります。被害の回復と関係の修復を重んじる修復的司法、まわりの反応が逸脱を固定化すると考えるラベリング理論、小さな無秩序が犯罪をまねくという割れ窓理論もあわせてご覧ください。
批判
マートンの理論は、低所得層の財産犯罪はよく説明できるものの、ホワイトカラー犯罪や暴力犯罪、そして緊張をかかえながらも罪を犯さない大多数の人びとを十分に説明できない、と批判されてきました。一般緊張理論は、こうした限界をおぎなおうとする試みです。
よくある質問
- 緊張理論とは?
- 社会的な目標と正当な手段のずれや、個人がかかえる緊張が、犯罪や逸脱を生むと考える理論です。
- マートンの5つの適応様式とは?
- 同調、革新、儀礼主義、逃避主義、反抗です。
- 一般緊張理論は何がちがうのですか?
- 緊張の原因を喪失や虐待などの経験にまで広げ、怒りのような否定的感情が非行につながる過程を重視します。
参考文献
- Merton, R. K. (1938). Social structure and anomie. American Sociological Review, 3(5), 672–682.
- Agnew, R. (1992). Foundation for a general strain theory of crime and delinquency. Criminology, 30(1), 47–87.
