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フィッシャーのランナウェイ説

🔬 自然科学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
フィッシャーのランナウェイ説とは、配偶者選びで特定の形質を好む傾向とその形質そのものが遺伝的に結びつき、互いを強め合うことで、生存に不利になるほど誇張された装飾が急速に進化しうるとする性選択の理論です。英国の統計学者・遺伝学者ロナルド・フィッシャーが1915年と1930年に提唱しました。
目次
  1. 1. 起源と基本的な論理
  2. 2. 数理モデルとセクシーサン仮説
  3. 3. ハンディキャップ原理との比較と実験による証拠
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

起源と基本的な論理

チャールズ・ダーウィン(1871年)は、クジャクの尾のように生存には不利に見える形質が配偶者選びを通じて進化しうるという性選択の理論を示しましたが、雌がなぜそうした形質を好むようになったのかは十分に説明しませんでした。ロナルド・フィッシャー(1915年、1930年)は、当初わずかな利点のあった形質を好む雌がその形質をもつ雄と交配すると、子は形質と好みの両方を受け継ぐことになると指摘しました。すると好みと形質のあいだに遺伝的な相関が生まれ、形質が大きくなるほど好みも強まるという正のフィードバックが起こり、形質が「暴走」するように誇張されうるというのです。この過程は、自然選択による生存上のコストとつり合うまで続きうるとされます。

数理モデルとセクシーサン仮説

フィッシャーの考えは長らく言葉による説明にとどまっていましたが、オドナルド(1962年)が初期の数理解析を行い、ランデ(1981年)とカークパトリック(1982年)が量的遺伝学と集団遺伝学のモデルで厳密に定式化しました。ランデは、形質と好みの遺伝的共分散が十分に大きければランナウェイが起こり、集団ごとに異なる方向へ進化して種分化を促しうることを示しました。この観点では、雌が得る利益は、魅力的な形質を受け継いで交配に成功する「セクシーな息子」です。ポミアンコフスキー、巌佐、ニー(1991年)は、好みにコストがある場合に偏った突然変異がランナウェイを維持する条件を分析しました。プラム(2010年)は、ランデ=カークパトリック機構を性選択研究の帰無モデルとすべきだと主張しています。

ハンディキャップ原理との比較と実験による証拠

ランナウェイ・モデルと対比される理論に、ザハヴィ(1975年)のハンディキャップ原理があります。ハンディキャップ原理はコストの大きい装飾が雄の実際の質を正直に伝える信号だと考えるのに対し、ランナウェイ・モデルは形質そのものが質とは無関係に魅力によって選択されうると考えます。コッコら(2003年)は、二つの機構が一つの連続体の上にあると整理しました。実験的な証拠として、アンダーソン(1982年)はアフリカのコクホウジャクの尾を人為的に長くすると交配の成功が高まることを示し、ウィルキンソンとレイロ(1994年)はシュモクバエで雄の眼柄の長さに人為選択をかけると雌の好みも一緒に変わる相関反応を観察しました。アンダーソン(1994年)の『性選択』は、こうした研究を幅広く総合しています。

よくある質問

フィッシャーのランナウェイ説を簡単に説明すると?
雌が好む装飾とその装飾を好む傾向がいっしょに子に伝わって互いをあおり、装飾がどんどん誇張されていく現象を説明する理論です。
ハンディキャップ原理とはどう違いますか?
ハンディキャップ原理は高価な装飾が雄の良い質を示すと考えますが、ランナウェイ説は装飾が質とは関係なく魅力そのもののために広まりうると考えます。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Darwin, C. (1871). The Descent of Man, and Selection in Relation to Sex. London: John Murray.
  2. Fisher, R. A. (1915). The evolution of sexual preference. Eugenics Review, 7(3), 184–192.
  3. Fisher, R. A. (1930). The Genetical Theory of Natural Selection. Oxford: Clarendon Press.
  4. O'Donald, P. (1962). The theory of sexual selection. Heredity, 17(4), 541–552.
  5. Lande, R. (1981). Models of speciation by sexual selection on polygenic traits. Proceedings of the National Academy of Sciences, 78(6), 3721–3725.
  6. Kirkpatrick, M. (1982). Sexual selection and the evolution of female choice. Evolution, 36(1), 1–12.
  7. Zahavi, A. (1975). Mate selection: A selection for a handicap. Journal of Theoretical Biology, 53(1), 205–214.
  8. Andersson, M. (1982). Female choice selects for extreme tail length in a widowbird. Nature, 299(5886), 818–820.
  9. Pomiankowski, A., Iwasa, Y., & Nee, S. (1991). The evolution of costly mate preferences I. Fisher and biased mutation. Evolution, 45(6), 1422–1430.
  10. Andersson, M. (1994). Sexual Selection. Princeton: Princeton University Press.
  11. Wilkinson, G. S., & Reillo, P. R. (1994). Female choice response to artificial selection on an exaggerated male trait in a stalk-eyed fly. Proceedings of the Royal Society B, 255(1342), 1–6.
  12. Kokko, H., Brooks, R., Jennions, M. D., & Morley, J. (2003). The evolution of mate choice and mating biases. Proceedings of the Royal Society B, 270(1515), 653–664.
  13. Prum, R. O. (2010). The Lande–Kirkpatrick mechanism is the null model of evolution by intersexual selection. Evolution, 64(11), 3085–3100.

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この記事は2026年10月26日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。