発見:割れるウラン
1938年12月、ベルリンの化学者オットー・ハーンとフリッツ・シュトラスマンは、ウランに中性子を当てるとずっと軽いバリウムが生じるという意外な結果を得ました。ナチスを逃れてスウェーデンにいた物理学者リーゼ・マイトナーと甥のオットー・フリッシュは、これを「原子核が二つに割れた」と解釈し、細胞分裂にちなんで「核分裂(fission)」と名づけました。二人は分裂片の質量の合計が元よりわずかに小さく、失われた質量がアインシュタインのE=mc²どおりエネルギーに変わることも計算しました。1944年のノーベル化学賞はハーンだけに贈られ、マイトナーが外されたことは科学史上の不公平の代表例とされます。109番元素マイトネリウムが彼女の名を周期表に残しています。
連鎖反応と臨界量
ウラン235の原子核が一つ分裂すると約200MeVのエネルギーとともに中性子が平均2〜3個出ます。この中性子が別の原子核をさらに分裂させると、反応がねずみ算式に広がる連鎖反応が起こります。連鎖反応が自ら続くには燃料が一定量以上集まっている必要があり、これを臨界量といいます。1942年、エンリコ・フェルミのチームがシカゴ大学の競技場観客席の下で最初の原子炉「シカゴ・パイル1号」を臨界に到達させ、1945年にはマンハッタン計画の原子爆弾が広島と長崎に投下されました。ウラン1kgがすべて分裂すると、石炭約2,500〜3,000トンを燃やしたのに匹敵するエネルギーが出ます。
原子力発電と課題
原子力発電所は制御棒と減速材で連鎖反応を一定に保ち、出てくる熱で水を沸かして蒸気でタービンを回します。多くは3〜5%に濃縮したウランを使う軽水炉で、世界の電力の約9〜10%を原子力がまかなっています。運転中に二酸化炭素をほとんど出さないためカーボンニュートラルの手段として再び注目されていますが、1986年のチェルノブイリや2011年の福島第一原発のような事故の危険、数万年にわたり放射能が残る使用済み燃料の処分は未解決の課題です。分裂生成物の放射能はそれぞれの半減期で減っていきます。軽い原子核を合わせる核融合は燃料が豊富で長寿命の廃棄物が少ないものの、まだ実用化前です。
よくある質問
- 核分裂と核融合の違いは何ですか?
- 核分裂は重い原子核を割り、核融合は水素のような軽い原子核を合わせます。どちらも減った質量分のエネルギーが出ますが、現在の商業発電に使われているのは核分裂だけです。
- 原子力発電所は原爆のように爆発しますか?
- いいえ。発電用燃料の濃縮度は3〜5%と低く、核爆発は起こりません。ただし冷却に失敗すると炉心溶融や水素爆発で放射性物質が漏れることがあります。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Hahn, O., & Strassmann, F. (1939). Über den Nachweis und das Verhalten der bei der Bestrahlung des Urans mittels Neutronen entstehenden Erdalkalimetalle. Naturwissenschaften, 27, 11–15.
- Meitner, L., & Frisch, O. R. (1939). Disintegration of uranium by neutrons: a new type of nuclear reaction. Nature, 143, 239–240.
- World Nuclear Association. (2024). Physics of Uranium and Nuclear Energy.
- International Atomic Energy Agency. (2024). Nuclear Power Reactors in the World. IAEA.
