片親疎外とは
片親疎外(parental alienation)とは、父母が離婚や別居をする過程で、子どもがはっきりした理由なく一方の親を強く拒み、会うのをいやがるようになる現象をいいます。いっしょに暮らす親がもう一方の親を悪く言ったり、会うのを妨げたりする影響が原因とされることが多い概念です。ただし、子どもが親を拒む理由はさまざまで、この概念の科学的根拠や裁判での使われ方をめぐっては非常に大きな論争があります。
片親引き離し症候群(PAS)と論争
アメリカの精神科医リチャード・ガードナーは1985年、親権争いのなかで子どもが一方の親をけなし、拒む状態を片親引き離し症候群(PAS)と名づけました。しかし実証的な根拠が乏しいと批判され、DSM-5にもICD-11にも独立した診断名としては採用されていません。 とくに、子どもへの虐待やDVを訴える親を「引き離しをしている親」とみなし、子どもを加害した親のもとへ送ることに使われかねない、という懸念が示されてきました。
子どもが親を拒むさまざまな理由
ケリーとジョンストン(2001年)は「症候群」ではなく「疎外された子ども」という見方で、子どもの拒否を連続したものとしてとらえることを提案しました。
| タイプ | 説明 |
|---|---|
| 健全な関係 | 両方の親とよい関係 |
| 親密さの差 | 一方の親とより近い |
| 忠誠葛藤 | 両親のあいだで、どちらかの味方をしなければという圧力を感じる |
| 正当な拒否(エストレンジメント) | 虐待、暴力、ネグレクトなど実際の体験による拒否 |
| 疎外 | もう一方の親の影響で生じた不合理な拒否 |
子どもの拒否を見たら、まず「安全」を確かめることが大切です。拒否の理由が実際の虐待や暴力なら、それは疎外ではなく子どもの自己防衛です。反対に、両親の対立の三角関係に子どもが巻きこまれている場合は、子どもが両方の親を失うつらさを味わうことにもなりかねません。
離婚する親が避けたい行動
- 子どもの前で、もう一方の親を責めたり悪く言ったりする
- 子どもを伝言役や情報係にする(「パパに聞いてきて」)
- 正当な理由なく親子交流(面会交流)を妨げたり先のばしにしたりする
- もう一方の親に会ってきた子どもに罪悪感をもたせる
- 子どもに大人の気持ちをなぐさめさせる(親役割の逆転)
日本での議論
日本では、2026年4月施行の共同親権をめぐる議論のなかで、「片親疎外」という言葉が賛成・反対の両方の立場から取りあげられました。共同親権を求める側は子どもが別居親から引き離される問題を訴え、慎重な立場の側はDV被害者の訴えが「片親疎外」として退けられる危険を指摘しました。改正法では、親子交流について子の利益を最優先に考えることが明記されています。
よくある質問
- 片親引き離し症候群は正式な診断名ですか?
- いいえ。DSM-5もICD-11も、独立した診断名としては認めていません。
- 子どもが一方の親に会いたがらなければ、必ず片親疎外ですか?
- いいえ。虐待や暴力など実際の理由があることもあるため、専門家による慎重な評価が必要です。
- どこに相談できますか?
- 家庭裁判所の手続きのほか、親子交流支援団体、自治体のひとり親相談窓口、家族カウンセリングなどを利用できます。何より、子どもを両親の争いから切りはなすことが大切です。
参考文献
- Gardner, R. A. (1985). Recent trends in divorce and custody litigation. Academy Forum, 29(2), 3–7.
- Kelly, J. B., & Johnston, J. R. (2001). The alienated child: A reformulation of parental alienation syndrome. Family Court Review, 39(3), 249–266.
- Milchman, M. S., Geffner, R., & Meier, J. S. (2020). Ideology and rhetoric replace science and reason in some parental alienation literature and advocacy: A critique. Family Court Review, 58(2), 340–361.
