スタンフォード監獄実験とは
スタンフォード監獄実験(Stanford Prison Experiment)は、1971年にスタンフォード大学の心理学者フィリップ・ジンバルドーが行った実験です。新聞広告で集めた男子大学生24人を無作為に看守役と囚人役に分け、心理学部の建物の地下につくった模擬刑務所で生活させました。映画『es[エス]』のモデルとしても知られています。
- 研究者
- フィリップ・ジンバルドーら
- 時期
- 1971年8月
- 参加者
- 男子大学生24人(看守・囚人・補欠)
- 結果
- 2週間の予定を6日で中止
実験の経過
- 囚人役の学生は、地元警察の協力で自宅から「逮捕」され、模擬刑務所に連れてこられました。
- 囚人は名前ではなく番号で呼ばれ、囚人服を着せられました。看守には制服とミラーサングラスが与えられました。
- 2日目に囚人が反乱を起こすと、看守はしだいに屈辱的な罰や支配を強めました。
- 強い精神的苦痛を示した囚人の何人かは早めに解放されました。
- 見学に来た大学院生クリスティーナ・マスラックが強く異議を唱え、実験は6日で打ち切られました。
ジンバルドーの結論:状況の力
ジンバルドーは、普通の大学生でも状況しだいで残酷になると主張しました。彼は、悪い行いは個人の性格よりも、役割や制服、権力といった「状況」と、それを生み出す「システム」から生まれると考え、のちにイラクのアブグレイブ刑務所での虐待事件を説明する際にもこの実験を根拠にしました。
批判と再評価
長く教科書に載ってきたこの実験ですが、現在は科学的な根拠が弱いという批判が多く出ています。
| 批判 | 内容 |
|---|---|
| 演出の疑い | ル・テクシエ(2019)は保管記録を分析し、研究者が看守に「厳しくするように」と促していた形跡を示しました。 |
| 要求特性 | 参加者が研究者の期待を察して演じていた可能性があります。 |
| 研究者の二重の役割 | ジンバルドー自身が「刑務所長」を務め、客観性を失いました。 |
| 標本と統制 | 参加者が少なく比較群もないため、一般化は困難です。 |
| 研究倫理 | 参加者に大きな精神的苦痛を与えました。 |
実際、すべての看守が残酷になったわけではなく、公平にふるまう人や囚人を助ける人もいました。現在は「誰でも状況しだいで悪になる」というより、権威者が何を期待し許すのか、そして人々が集団の目標にどれだけ同一化するのかが重要だという解釈も示されています。
研究倫理への影響
スタンフォード監獄実験とミルグラムの服従実験は、参加者保護の重要性を示す代表例となりました。今日の心理学研究では、倫理審査委員会の審査、十分な説明にもとづく同意(インフォームド・コンセント)、いつでも参加をやめられる権利が基本です。日本でも「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」や各大学の倫理審査が整えられています。
よくある質問
- スタンフォード監獄実験とは何ですか?
- 1971年にジンバルドーが大学生を看守役と囚人役に分けて模擬刑務所で生活させた実験で、虐待がエスカレートして6日で中止されました。
- スタンフォード監獄実験はやらせだったのですか?
- 2019年の記録分析などで研究者が看守の行動を誘導した形跡が示され、もとの結論をそのまま受け入れるのは難しいという批判が多くあります。
- この実験の教訓は何ですか?
- 役割や権力、権威者の期待が行動に大きく影響しうること、そして研究参加者の保護と研究倫理の大切さです。
参考文献
- Haney, C., Banks, C., & Zimbardo, P. (1973). Interpersonal dynamics in a simulated prison. International Journal of Criminology and Penology, 1, 69–97.
- Le Texier, T. (2019). Debunking the Stanford Prison Experiment. American Psychologist, 74(7), 823–839.
- Zimbardo, P. (2007). The Lucifer Effect: Understanding How Good People Turn Evil. New York: Random House.
