政策サブシステムと信念体系
サバティエ(1988年)は、政策は多くの行為者が長期にわたって相互作用する「政策サブシステム」のなかでつくられると考えました。たとえば水質政策のサブシステムには、担当官僚、議員、環境団体、産業界、科学者、記者などが参加します。彼らは共有する信念にしたがって二つか三つの唱道連合に分かれて競争します。信念体系は三つの層から成ります。最も深い「深層核心的信念」は人間の本性や自由と平等の優先順位といった根本的な価値で、ほとんど変わりません。「政策核心的信念」はその分野の問題の原因や政府の役割についての考えで、連合を結びつける接着剤の役割を果たします。最も外側の「二次的側面」は具体的な手段や予算についての考えで、比較的変わりやすいものです。この構造は、多様な集団の競争を重視する多元主義の伝統ともつながっています。
政策変化の経路
モデルは政策変化が起こる経路をいくつか示します。第一に「政策志向学習」は、経験や新しい情報によって連合が信念の二次的側面を修正することで、異なる連合が専門的な議論の場で出会うときに促されます。しかし学習だけでは政策核心はなかなか変わりません。第二に、経済危機、世論の変化、政権交代、他のサブシステムの決定といった「外的ショック」は、連合間の力の均衡を変えて大きな政策変化を引き起こしえます。その後の研究者は、サブシステム内の事故のような「内的ショック」や、長い膠着の末の「交渉による合意」も主要な経路として加えました(Weible et al., 2011)。ジェンキンス=スミスら(1991年)は、連合の構成が時間がたっても比較的安定して保たれるという仮説を実証しました。
適用と批判
サバティエとジェンキンス=スミス(1993年)は複数の事例研究でモデルを磨き、サバティエ(1998年)はモデルを修正しながら欧州政治への適用可能性を検討しました。ワイブル、サバティエ、マックイーン(2009年)とピアースら(2017年)は多数の適用研究を検討し、モデルが多様な国や政策分野で使われていると報告しました。批判者は、連合の境界をどう定めるか、信念をどう測るかがあいまいで、強い信念対立のない分野にはうまく当てはまらないと指摘します。唱道連合モデルは多重流モデルや断続平衡理論とともに政策過程の主要理論とされています。
よくある質問
- 唱道連合モデルを簡単に言うと?
- 同じ信念をもつ政治家、公務員、市民団体、専門家、記者などが一つのチーム(連合)をつくり、ほかのチームと長く競争するなかで政策が変わる、という理論です。深い価値観はなかなか変わらないため、連合は長く続く傾向があります。
- 唱道連合モデルで大きな政策変化はいつ起こりますか?
- 経済危機、政権交代、大事故などの外的・内的ショックで連合間の力の均衡が変わるときや、長い膠着の末に連合どうしが交渉して合意するときに大きな変化が起こります。学習だけでは主に小さな変化が生じます。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Sabatier, P. A. (1988). An advocacy coalition framework of policy change and the role of policy-oriented learning therein. Policy Sciences, 21(2–3), 129–168. 唱道連合モデルを初めて示した原論文で、政策サブシステムと信念体系という中核概念を最初から知りたいときに参考になります。
- Sabatier, P. A., & Jenkins-Smith, H. C. (Eds.). (1993). Policy Change and Learning: An Advocacy Coalition Approach. Boulder, CO: Westview Press. 複数の事例研究でモデルを磨いた編著で、理論が実際の政策分野にどう適用されるかを見るのに参考になります。
- Jenkins-Smith, H. C., St. Clair, G. K., & Woods, B. (1991). Explaining change in policy subsystems: Analysis of coalition stability and defection over time. American Journal of Political Science, 35(4), 851–880. 連合が時間がたっても安定して保たれるかを実証した研究で、連合の安定性仮説をデータで確かめるのに役立ちます。
- Sabatier, P. A. (1998). The advocacy coalition framework: Revisions and relevance for Europe. Journal of European Public Policy, 5(1), 98–130. モデルを修正し欧州政治への適用可能性を検討した文章で、アメリカ以外への拡張を理解するのに参考になります。
- Weible, C. M., Sabatier, P. A., & McQueen, K. (2009). Themes and variations: Taking stock of the advocacy coalition framework. Policy Studies Journal, 37(1), 121–140. 80本の適用研究を検討した論文で、モデルがどこでどう使われたかを把握するのに役立ちます。
- Weible, C. M., Sabatier, P. A., Jenkins-Smith, H. C., Nohrstedt, D., Henry, A. D., & deLeon, P. (2011). A quarter century of the advocacy coalition framework: An introduction to the special issue. Policy Studies Journal, 39(3), 349–360. 25年間の発展をまとめた特集の序文で、政策変化の四つの経路など最新の整理を見るのに参考になります。
- Pierce, J. J., Peterson, H. L., Jones, M. D., Garrard, S. P., & Vu, T. (2017). There and back again: A tale of the advocacy coalition framework. Policy Studies Journal, 45(S1), S13–S46. 160本を超える適用事例を体系的に検討した研究で、仮説ごとの支持の程度を確かめたいときに役立ちます。
