文脈療法とは
文脈療法(コンテクスチュアル・セラピー)とは、家族の関係を、世代をこえて「与えたもの」と「受けとったもの」が記された台帳のようなものとみて、その公平さがくずれたときに生まれる葛藤や症状を扱う多世代家族療法です。ハンガリー出身のアメリカの精神科医イヴァン・ボスゾルメニ=ナージが、ジェラルディン・スパークとの共著『見えない忠誠心(Invisible Loyalties)』(1973)で枠組みを示し、1986年にバーバラ・クラズナーとともに臨床の手引きとしてまとめました。
- 中心
- 関係倫理(与えることと受けとることの公平さ)
- 概念
- 見えない忠誠心、台帳、回転板
- 技法
- 多方向への肩入れ
- 目標
- 信頼と公平さの回復
4つの次元
| 次元 | 内容 |
|---|---|
| 事実 | 遺伝、病気、離婚などの客観的なできごと |
| 個人の心理 | ひとりひとりの欲求や感情 |
| やりとり | 家族のコミュニケーションのパターン |
| 関係倫理 | だれが何を与え、何を受けとったかの公平さ |
ボスゾルメニ=ナージは、4つ目の関係倫理をもっとも重視しました。
おもな概念
- 見えない忠誠心:子どもが自分でも気づかないまま、親や生まれ育った家族への義理を守り、自分の人生をあと回しにすること
- 台帳:家族のなかで与えたもの・受けとったものの記録。受けた恩は返さなければという負い目が積み重なります。
- 回転板:親から受けとれなかったものを、筋ちがいに配偶者や子どもに求め、傷が次の世代へまわっていくこと
- 分裂した忠誠心:離婚した家庭の子どもが、片方の親に忠実であろうとすると、もう片方を裏切ることになってしまう状態
- 親化:子どもが親の世話や相談相手の役割を引き受けること
親孝行をしているはずなのに、なぜか心がずっと重い。そんな感覚はありませんか。文脈療法は、この重さを「見えない台帳」で説明します。子どものころに受けとれなかったケアと、親に返すべき恩とが同じ台帳に書かれていて、どちらも清算されないままだと、そのもやもやが配偶者や子どもに向かってしまうのです。「恩」や「義理」、介護の責任を大切にする日本の家族にも、とても身近な見方といえます。
多方向への肩入れ
治療者は中立をたもつかわりに、家族ひとりひとりの立場に順番に肩入れし、それぞれが受けた傷とはたしてきた貢献を認めます。こうして公平さが取りもどされると、家族はふたたび信頼を築けるようになります。
ほかの理論との関係
世代をこえた伝達を扱う点でボーエンの家族システム理論に近く、原家族(生まれ育った家族)をふり返る作業とあわせてよく使われます。子どもが過剰に世話役を担う問題は共依存ともつながります。
よくある質問
- 文脈療法を始めたのはだれですか?
- イヴァン・ボスゾルメニ=ナージです。
- 回転板とは何ですか?
- 親から受けた不公平を配偶者や子どもに向けて返してしまい、傷が世代をこえて受けつがれていくことです。
- 多方向への肩入れは、中立とどうちがうのですか?
- だれの味方にもならないのではなく、全員の味方に順番になり、それぞれの言い分と貢献を認めることです。
参考文献
- Boszormenyi-Nagy, I., & Spark, G. M. (1973). Invisible loyalties: Reciprocity in intergenerational family therapy. Harper & Row.
- Boszormenyi-Nagy, I., & Krasner, B. R. (1986). Between give and take: A clinical guide to contextual therapy. Brunner/Mazel.
