家族神話とは
家族神話とは、家族のメンバー全員が共有していて、だれも疑問をもたない、家族やひとりひとりについての思いこみ(信念)のことです。事実とずれているところがあっても、家族はそれを当たり前のこととして受け入れ、その思いこみにそって役割を分けあいます。アメリカの精神科医アントニオ・フェレイラが1963年の論文「家族神話とホメオスタシス」で、家族神話は家族のバランス(ホメオスタシス)を守るしくみだと説明しました。
家族神話の例
- 「うちの家族は一度もけんかしたことがない」
- 「お母さんは体が弱いから、心配をかけてはいけない」
- 「お兄ちゃんは頭がよくて、弟は手先が器用」
- 「うちの家系の男はみんな酒に強い」
- 「お父さんがいなかったら、この家はやっていけない」
こうした話は一見ふつうですが、争いを口にできなくしたり、それぞれの役割を固定してしまったりすることがあります。
なぜ神話が生まれるのか
フェレイラは、家族神話を家族みんなで守る防衛だと考えました。両親の不和や依存症、大切な人の喪失など、向きあうのがつらい現実があるとき、家族は全員が信じる物語をつくって不安をやわらげ、関係を保とうとします。イギリスの家族療法家ジョン・ビング=ホールも1973年に、家族神話がつらい記憶や感情を避けるための防衛として使われると述べています。
「うちは仲のいい家族だから」という言葉が、いちばん重たい秘密になっていることがあります。「仲のいい家族」という物語を守るために、だれかが怒りをのみこみ、だれかが問題をひとりで背負っている。神話は家族を守ってくれますが、その代償を払うのは、たいてい家族のなかでいちばん弱い立場の人です。世間体や「家」の体面を大切にする文化では、こうした神話がとくに強くなりやすいともいわれます。
働きと危うさ
| 側面 | 内容 |
|---|---|
| 働き | 所属感、家族のアイデンティティ、危機のときの結束 |
| 危うさ | 争いをかくす、役割を固定する、変化に抵抗する |
神話が強くかたいほど、機能不全家族の「話すな」というルールといっしょに働くようになります。世代をこえて受けつがれる神話は、原家族をふり返る作業や文脈療法でも扱われます。
カウンセリングでの扱い方
治療者は神話を正面からくずそうとするのではなく、まずその神話がこれまで家族をどう守ってきたかを認めます。そのうえで「その物語のために、だれが何をがまんしてきたのか」をいっしょにふり返り、もっとやわらかい物語へと書きかえていきます。
よくある質問
- 家族神話はうそなのですか?
- わざとついたうそではなく、家族がいっしょに信じている物語です。一部は事実であることもあります。
- 家族ルールとのちがいは?
- ルールは行動のパターンで、神話はそのルールを正当化する信念や物語です。
- よい家族神話もありますか?
- はい。「うちは困ったときに助けあう」のような柔軟な物語は、家族の力になります。
参考文献
- Ferreira, A. J. (1963). Family myth and homeostasis. Archives of General Psychiatry, 9(5), 457–463.
- Byng-Hall, J. (1973). Family myths used as defence in conjoint family therapy. British Journal of Medical Psychology, 46(3), 239–250.
