要求-撤退パターンとは
要求-撤退パターン(demand-withdraw pattern)とは、もめごとの場面で一方(要求する側)が問題を持ちだし、責め、変わってほしいと迫り、もう一方(撤退する側)は口数を減らしたり、話をそらしたり、その場を離れたりするやりとりのことです。求めるほど相手は引き、相手が引くほど求める声は大きくなる、という悪循環がポイントです。関係の満足度の低下や離婚のリスクと関連するパターンとして研究されてきました。
- 要求する側
- 不満、批判、問いつめ、追いかける
- 撤退する側
- 沈黙、回避、言いわけ、席を立つ
- ポイント
- おたがいがおたがいを強める循環
- 関連
- ゴットマンの「逃避」、感情焦点化療法(EFT)
研究のはじまり
心理学者のアンドリュー・クリステンセンとクリストファー・ヘヴィー(1990年)は、夫婦のけんかを観察し、妻が要求し夫が撤退するケースが多いと報告しました。ところが、どちらが変化を望んでいるかによって役割が入れかわることもわかりました。つまり性別そのものより、いまの関係に不満があって変化を望む人が要求する側になりやすい、という立場(社会構造)による説明が有力になりました。
なぜくり返すのか
| 要求する側の本音 | 撤退する側の本音 |
|---|---|
| 「ちゃんと聞いてくれない。わたしは大事にされていない」 | 「何をしても責められる。これ以上話すとけんかが大きくなるだけ」 |
| もっと強く、もっと何度も言う | もっと黙り、もっと避ける |
大人の愛着理論から見ると、要求する側はつながりが切れる不安から、撤退する側は失敗したり否定されたりする怖さから、それぞれ自分を守ろうとしています。スー・ジョンソンの感情焦点化療法(EFT)ではこれを「追う人と逃げる人(pursue-withdraw)のサイクル」と呼び、相手ではなくサイクルそのものを二人の共通の敵として見るようにします。
二人とも関係を守ろうとしているのに、やり方が正反対なのです。追う人は近づきたくて迫り、逃げる人はけんかを避けたくて黙る。おたがいの努力が、相手には攻撃や見すてられることに見えてしまう。それがこのパターンのいちばんつらいところです。日本では「話し合いをしようとすると夫が黙る」「妻の不機嫌が怖くて家に帰りたくない」という悩みとして語られることも多いパターンです。
抜け出すために
- パターンに名前をつける:「またいつものパターンだね」と二人で気づきます。
- 要求する側はやわらかく始める:責めるかわりにアイメッセージやNVCで気持ちと望みを伝えます。
- 撤退する側は離れる理由と戻る時間を伝える:「20分だけ頭を冷やして、また話そう」とタイムアウトを約束します。ゴットマンは、体が興奮した状態(フラッディング)では休憩が必要だと述べています。
- 本音を分かちあう:問いつめや沈黙の下にある不安や怖さを言葉にします。
よくある質問
- 要求する側はたいてい女性ですか?
- 研究では「妻が要求し、夫が撤退する」形が多いものの、変化を望む側が要求する側になりやすいという結果のほうが重要とされています。
- ストーンウォーリング(逃避)と同じですか?
- 撤退がいちばん極端になった形が、ゴットマンのいうストーンウォーリングです。
- このパターンがあったら別れるべきですか?
- いいえ。多くのカップルにある程度見られるもので、気づいて変える練習で減らせます。
参考文献
- Christensen, A., & Heavey, C. L. (1990). Gender and social structure in the demand/withdraw pattern of marital conflict. Journal of Personality and Social Psychology, 59(1), 73–81.
- Gottman, J. M., & Silver, N. (1999). The seven principles for making marriage work. New York: Crown.
- Johnson, S. M. (2008). Hold me tight: Seven conversations for a lifetime of love. New York: Little, Brown.
