未必の故意とは
未必の故意は、犯罪の結果が起こる可能性を認識しながら、それを避けようとせず認容(受け入れ)している場合をいいます。ニュースで「殺意の有無」が争われるとき、よく登場する言葉です。
刑法38条1項は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と定め、故意犯の処罰を原則としています。未必の故意は故意のもっとも弱い形で、認められれば殺人罪などの故意犯、認められなければ過失致死罪などにとどまります。
📌 ひと目でわかる
- 認識
- 結果が起こるかもしれないと分かっている
- 意思
- 起こっても構わないと受け入れている(認容)
- 法的な扱い
- 故意犯として処罰
- 判例・通説
- 認容説が中心(動機説・認識説などもある)
故意と過失の段階
| 区分 | 結果の認識 | 結果への態度 | 扱い |
|---|---|---|---|
| 確定的故意 | 確実に起こると分かっている | 望む・当然受け入れる | 故意犯 |
| 未必の故意 | 起こるかもしれないと分かっている | 起きても構わない | 故意犯 |
| 認識ある過失 | 起こるかもしれないと分かっている | まさか起きないだろう | 過失犯 |
| 認識なき過失 | 注意すれば分かった | 認識がない | 過失犯 |
いちばん難しいのは未必の故意と認識ある過失の区別です。どちらも危険に気づいていた点は同じですが、「どうなっても構わない」と考えたか、「大丈夫だろう」と信じたかで分かれます。
裁判ではどう判断されるか
心の中は見えないため、裁判所は客観的な事情から推認します。
- 行為の危険性:凶器の種類、攻撃した部位、回数
- 本人の知識:職業や経験から危険を知っていたか
- 結果を避ける行動:危険を減らす措置をとったか
- 前後の事情:動機、事件後に救護したか逃げたか
たとえば刃物で胸を強く何度も刺した場合や、制止する警察官を車にしがみつかせたまま高速で走った場合には、殺人の未必の故意が認められやすい傾向にあります。
同じ死亡結果でも、未必の故意が認められれば殺人罪(死刑または無期もしくは5年以上の拘禁刑)、認められなければ過失致死罪(50万円以下の罰金)や重過失致死罪になり、刑の重さが大きく変わります。
海外の類似概念
- ドイツ:dolus eventualis(未必の故意)という用語の出どころです。
- 韓国:「미필적 고의」として同じ概念を使い、2014年のセウォル号沈没事故では船長に不作為による殺人罪が確定しました。
- アメリカ:模範刑法典は purposely、knowingly、recklessly、negligently に分け、未必の故意に近いのは recklessness(危険の意識的な無視)です。
- 中国:刑法14条の「放任」が間接故意にあたります。
よくある質問
- 未必の故意と確定的故意で刑は変わりますか?
- 成立する罪は同じです。ただし量刑では犯意の強さが考慮され、刑の重さに差が出ることがあります。
- 飲酒運転の死亡事故は未必の故意になりますか?
- 通常は危険運転致死罪など過失を基礎とする罪で処理されますが、人をはねても構わないと考えたと評価できる事情があれば殺人罪が認められることもあります。
- 日常会話での「未必の故意」はどんな意味ですか?
- 「悪い結果になると分かっていて放置した」という意味で使われます。法律上の意味に近いですが、裁判では上の基準で厳密に判断されます。
参考文献
- 형법 제13조, 제14조 (국가법령정보센터 law.go.kr)
- 대법원 2015. 11. 12. 선고 2015도6809 전원합의체 판결 (세월호 사건)
- American Law Institute, Model Penal Code § 2.02 (1962).
- 刑法第38条(e-Gov法令検索 laws.e-gov.go.jp)
- 《中华人民共和国刑法》第十四条、第十五条(国家法律法规数据库 flk.npc.gov.cn)
- Roxin, C. (2006). Strafrecht Allgemeiner Teil, Bd. I (4. Aufl.). C.H. Beck.
