二つの処理様式
チェイケン(1980年)は、人がいつもメッセージを丁寧に吟味するわけではないことに注目しました。実験参加者は、争点が自分と大きく関係するときには主張の質に応じて態度を変えましたが、関係が小さいときには話し手が好感をもてるかといった手がかりにより大きく影響されました。チェイケンはこれを、認知的な労力を多く要する「システマティック処理」と、経験から得た簡単な判断ルールを使う「ヒューリスティック処理」の違いとして説明しました。「専門家は正しい」「多くの人が賛成していれば正しい」「主張が長ければ根拠が多い」といったルールが代表的です。これは利用可能性ヒューリスティックのような判断の近道とも通じます。
十分性原理と同時作動
チェイケンら(1989年)は、人は「これで十分に確信できる」と感じる水準に達するまでしか努力しないという「十分性原理」を示しました。実際の確信と望む確信との差が大きいほど、システマティック処理を多く行います。このモデルの特徴は、二つの処理が同時に起こりうると考える点です。二つの処理が同じ方向を指すと効果が合わさる「加算」、システマティック処理がヒューリスティックな手がかりの影響を弱める「減衰」、そしてヒューリスティックな手がかりがシステマティック処理そのものを一方に偏らせる「バイアス」があります。チェイケンとマヘスワラン(1994年)は、主張があいまいなとき、情報源の信頼性が人々の主張の解釈の仕方まで変えることを示しました。
処理の動機と応用
チェンら(1999年)は、人は正確な判断を求める「正確性動機」だけでなく、自分の既存の信念を守ろうとする「防衛動機」や、他者に良い印象を与えようとする「印象動機」によっても処理すると整理しました。防衛動機が強いと、丁寧に吟味しても自分に都合のよい偏った結論に至ることがあります。このモデルは健康や環境のリスク・コミュニケーションに広く応用されてきました。グリフィンら(1999年)はリスク情報を探索し処理する過程を説明するモデルをつくり、トランボ(2002年)は処理様式によってリスク認知が異なることを示しました。精緻化見込みモデルと非常に似ていて両者の違いは大きくないという批判や、二つの処理を一つの過程とみるユニモデルからの反論もあります。
よくある質問
- ヒューリスティック・システマティック・モデルを簡単に言うと?
- 人は説得メッセージを「専門家が言ったのだから正しいだろう」のように手がかりで素早く判断することもあれば、内容を丁寧に吟味することもあるという理論です。関心や確信の必要が大きいほど、丁寧に考えます。
- 精緻化見込みモデルとはどう違いますか?
- どちらのモデルも深い処理と浅い処理を区別しますが、精緻化見込みモデルは主に中心ルートと周辺ルートのどちらかが優勢になると考えるのに対し、ヒューリスティック・システマティック・モデルは二つの処理が同時に起こり、互いに加算したり弱めたり偏らせたりしうると強調します。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Chaiken, S. (1980). Heuristic versus systematic information processing and the use of source versus message cues in persuasion. Journal of Personality and Social Psychology, 39(5), 752–766. ヒューリスティック処理とシステマティック処理を初めて区別した原典の実験で、モデルの出発点を見るのに参考になります。
- Chaiken, S., Liberman, A., & Eagly, A. H. (1989). Heuristic and systematic information processing within and beyond the persuasion context. In J. S. Uleman & J. A. Bargh (Eds.), Unintended Thought (pp. 212–252). New York: Guilford Press. 十分性原理と正確性・防衛・印象の動機を整理した中核的な文章で、モデルの理論的構造を理解するのに役立ちます。
- Bohner, G., Chaiken, S., & Hunyadi, P. (1994). The role of mood and message ambiguity in the interplay of heuristic and systematic processing. European Journal of Social Psychology, 24(1), 207–221. 気分とメッセージの多義性が二つの処理様式の相互作用に与える影響を調べた研究で、バイアス仮説を理解するのに参考になります。
- Chaiken, S., & Maheswaran, D. (1994). Heuristic processing can bias systematic processing: Effects of source credibility, argument ambiguity, and task importance on attitude judgment. Journal of Personality and Social Psychology, 66(3), 460–473. 情報源の信頼性がシステマティック処理そのものを偏らせうることを示した研究で、二つの処理の同時作動を見るのに役立ちます。
- Chen, S., Duckworth, K., & Chaiken, S. (1999). Motivated heuristic and systematic processing. Psychological Inquiry, 10(1), 44–49. 正確性のほかに防衛・印象の動機が処理様式を変えることを整理した論文で、動機の役割を見るのに参考になります。
- Griffin, R. J., Dunwoody, S., & Neuwirth, K. (1999). Proposed model of the relationship of risk information seeking and processing to the development of preventive behaviors. Environmental Research, 80(2), S230–S245. モデルをリスク情報の探索研究に応用したRISPモデルで、リスク・健康コミュニケーションでの活用を見るのに役立ちます。
- Trumbo, C. W. (2002). Information processing and risk perception: An adaptation of the heuristic-systematic model. Journal of Communication, 52(2), 367–382. 処理様式がリスク認知とどう結びつくかを分析した研究で、実際のリスク状況での応用を見るのに参考になります。
