理論の出発点
共通内集団アイデンティティ・モデル(ガートナーら、1993年)は、「私たち」と「彼ら」を一つの上位集団にまとめれば偏見が減ると考えました。ムメンデイとヴェンツェル(1999年)は、これとは異なる可能性に注目しました。違いを評価するには比較の基準が必要で、その基準となるのが共通の上位カテゴリーです。たとえばドイツ人とポーランド人がともに「ヨーロッパ人」であるとき、ドイツ人がドイツ的な特性を「本当のヨーロッパ人らしさ」とみなせば、ポーランド人の違いは単なる違いではなく、標準から外れた欠点に見えるようになります。このように内集団の特性を上位カテゴリーに投影する過程を内集団投影と呼びます。
実証的証拠
ヴェンツェルら(2003年)は、ドイツ人とポーランド人、経営学と心理学の学生など複数の集団の組み合わせで、自集団が上位カテゴリーをよりよく代表しているとみなすほど、外集団への態度が否定的になることを示しました。これは社会的アイデンティティ理論の肯定的独自性の動機ともつながります。ビアンキら(2010年)は反応時間課題を用いて、人々が「ヨーロッパ人」を思い浮かべるとき自動的に自国の特性をより強く結びつけることを示し、投影が意識的な判断だけではないという証拠を出しました。ヴェンツェルら(2007年)はこれらの証拠を総合し、上位アイデンティティが強いほどかえって投影と差別が大きくなりうるとまとめました。
寛容のための条件
ヴァルトツスら(2003年)は、上位カテゴリーを一つの典型ではなく多様な姿が共存するものとして表象させると、内集団投影が減り外集団への寛容が高まることを示しました。また上位カテゴリーの典型そのものがはっきりしない、あるいはうまく定義されていないときにも投影は弱まります。ホーンジーとホッグ(2000年)は、下位集団のアイデンティティを消さずに上位アイデンティティとともに保つ二重アイデンティティのアプローチを提案しました。このモデルは、多数派が国民アイデンティティを独占し少数派を「本物ではない国民」とみなす現象や、集団ナルシシズムのような問題を理解するのに使われています。
よくある質問
- 内集団投影モデルを簡単に言うと?
- 「みんな同じ国民」といっても、それぞれの集団が自分たちの姿を「本当の国民らしさ」の基準にすると、他の集団を本物でなく劣っているとみなすようになるというモデルです。
- 共通内集団アイデンティティ・モデルとどう違いますか?
- 共通内集団アイデンティティ・モデルは上位集団にまとめると偏見が減ると考えますが、内集団投影モデルは上位集団が差別の基準になりうるため、かえって偏見が強まりうると考えます。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Mummendey, A., & Wenzel, M. (1999). Social discrimination and tolerance in intergroup relations: Reactions to intergroup difference. Personality and Social Psychology Review, 3(2), 158–174. 内集団投影モデルの出発点となった理論論文で、差別と寛容の条件を見るのに参考になります。
- Gaertner, S. L., Dovidio, J. F., Anastasio, P. A., Bachman, B. A., & Rust, M. C. (1993). The common ingroup identity model: Recategorization and the reduction of intergroup bias. European Review of Social Psychology, 4(1), 1–26. 上位カテゴリーが偏見を減らすという反対の予測を示したモデルで、二つの理論を比べるのに役立ちます。
- Wenzel, M., Mummendey, A., Weber, U., & Waldzus, S. (2003). The ingroup as pars pro toto: Projection from the ingroup onto the inclusive category as a precursor to social discrimination. Personality and Social Psychology Bulletin, 29(4), 461–473. 内集団の特性を上位カテゴリーに投影するほど外集団を低く見ることを示した中心的証拠で、モデルの仕組みを見るのに参考になります。
- Waldzus, S., Mummendey, A., Wenzel, M., & Weber, U. (2003). Towards tolerance: Representations of superordinate categories and perceived ingroup prototypicality. Journal of Experimental Social Psychology, 39(1), 31–47. 上位カテゴリーを多様に表象すると投影が減ることを示した研究で、寛容を高める方法を見るのに役立ちます。
- Wenzel, M., Mummendey, A., & Waldzus, S. (2007). Superordinate identities and intergroup conflict: The ingroup projection model. European Review of Social Psychology, 18(1), 331–372. モデルと研究成果を総合した代表的な概観で、理論全体を見るのに参考になります。
- Bianchi, M., Mummendey, A., Steffens, M. C., & Yzerbyt, V. Y. (2010). What do you mean by "European"? Evidence of spontaneous ingroup projection. Personality and Social Psychology Bulletin, 36(7), 960–974. 投影が自動的に起こるという証拠を示した研究で、無意識的側面を見るのに役立ちます。
- Hornsey, M. J., & Hogg, M. A. (2000). Assimilation and diversity: An integrative model of subgroup relations. Personality and Social Psychology Review, 4(2), 143–156. 下位集団のアイデンティティを保つ二重アイデンティティの観点を扱った論文で、代替的な解決策を見るのに参考になります。
