概念とギャディスの説明
ギャディス(1986年)は、冷戦は緊張と代理戦争に満ちていたものの、1945年以降40年以上にわたって大国間で直接の戦争がなかったことに注目しました。これはナポレオン戦争後や第一次世界大戦前の平和の期間よりも長いものでした。彼はその原因として、二つの超大国が地理的に離れ経済的に互いに依存しておらず衝突のきっかけが少なかったこと、二極体制の単純な構造、核兵器の抑止効果、偵察技術の発達で相手の能力をよく知るようになったこと、そして双方が互いの勢力圏を尊重する暗黙の「ゲームのルール」を守ったことを挙げました。
構造的・規範的説明
ネオリアリストのウォルツ(1964年)は早くから、二つの大国が互いだけを注視すればよい二極体制は、誤算の可能性が多い多極体制より安定していると主張していました。ミアシャイマー(1990年)は長い平和の原因を二極体制、軍事力の均衡、核兵器に求め、冷戦が終われば欧州が再び不安定になりうると予測しました。こうした説明はネオリアリズムや抑止理論にもとづいています。一方、ミューラー(1989年)は、二度の世界大戦を経て先進国で大国間戦争を恐ろしく無益なものとみる考えが広まったために平和が保たれたと考えました。ピンカー(2011年)は長い平和を、人類史において暴力が減少する大きな流れの一部と解釈しました。民主的平和論や経済的相互依存も補完的な説明として示されています。
統計的反論
長い平和が本当に構造的な変化なのかについては反論もあります。チリロとタレブ(2016年)は、戦争の死者数は極端な事象がまれだが非常に大きい「裾の厚い」分布に従うため、数十年間大きな戦争がなかったという事実だけでは戦争のリスクが減ったと結論づけにくいと主張しました。クラウセット(2018年)は1823年以降の国家間戦争のデータを分析し、現在の長い平和は過去と同じ戦争発生過程のもとでも偶然に現れうる水準であり、傾向の変化だと確信するにはさらに長い期間が必要だと報告しました。このように長い平和は、国際体制の安定要因や将来の戦争リスクをどう判断するかについての重要な論争のテーマです。
よくある質問
- 長い平和を簡単に言うと?
- 第二次世界大戦後、アメリカやソ連のような大国どうしが直接戦争をしない時期が長く続いた現象のことです。冷戦中も大国間の大きな戦争は起こりませんでした。
- 長い平和はこれからも続くでしょうか?
- 意見が分かれています。核抑止や規範の変化のおかげで続くという見方もありますが、大きな戦争はまれにしか起こらないため、数十年の平和だけではリスクが減ったと断定しにくいという統計的反論もあります。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Gaddis, J. L. (1986). The long peace: Elements of stability in the postwar international system. International Security, 10(4), 99–142. 「長い平和」という言葉を初めて使った論文で、冷戦期の大国間になぜ大戦争がなかったのかについての元の説明を知りたいときに参考になります。
- Waltz, K. N. (1964). The stability of a bipolar world. Daedalus, 93(3), 881–909. 二極体制が多極体制より安定しているという古典的な主張で、構造的説明のルーツを理解するのに参考になります。
- Mearsheimer, J. J. (1990). Back to the future: Instability in Europe after the Cold War. International Security, 15(1), 5–56. 冷戦が終われば欧州が再び不安定になると予測した論文で、長い平和の原因を二極体制と核兵器に求める観点がわかります。
- Mueller, J. (1989). Retreat from Doomsday: The Obsolescence of Major War. New York: Basic Books. 核兵器ではなく戦争に対する考え方の変化が平和をもたらしたという主張で、規範的な説明を理解するのに役立ちます。
- Pinker, S. (2011). The Better Angels of Our Nature: Why Violence Has Declined. New York: Viking. 長い平和を人類の暴力減少という大きな流れのなかで説明した本で、楽観的な観点を幅広く知りたいときに参考になります。
- Cirillo, P., & Taleb, N. N. (2016). On the statistical properties and tail risk of violent conflicts. Physica A: Statistical Mechanics and its Applications, 452, 29–45. 戦争の規模が裾の厚い分布に従うため、短い平和の期間だけでは傾向を判断しにくいという統計的反論で、批判的な見方を知るのに役立ちます。
- Clauset, A. (2018). Trends and fluctuations in the severity of interstate wars. Science Advances, 4(2), eaao3580. 1823年以降の国家間戦争のデータを分析し、長い平和が偶然の変動である可能性を検討しており、主張をデータで確かめたいときに参考になります。
