概念と類型
抑止とは相手の費用便益計算を変えて行動を予防することです。スナイダー(1961年)は2つの類型を区別しました。「拒否的抑止」は強い防衛力で攻撃が成功しえないと信じさせるもので、「懲罰的抑止」は攻撃すれば耐えがたい報復を加えると威嚇するものです。抑止の成功には3つの条件が必要です。威嚇を実行する能力、実際に実行するという信憑性、そしてその威嚇が相手に明確に伝わる意思疎通です。また平時に大規模攻撃を防ぐ「一般抑止」と危機における特定の攻撃を防ぐ「即時抑止」も区別されます(ハス、1999年)。シェリング(1966年)はすでに始まった行動を止めさせたり元に戻させたりする「強要」を抑止と区別し、強要の方が難しいと考えました。
核時代の抑止戦略
ブロディ(1946年)は原爆の登場直後に「これまで軍の主な目的は戦争に勝つことだったが、今後は戦争を避けることでなければならない」と書きました。ウォルステッター(1959年)は「恐怖の均衡」はおのずと安定するわけではなく、相手の奇襲を受けても生き残って報復できる「第二撃能力」があってこそ抑止が安定すると指摘しました。これが双方とも相手を破壊できるため誰も先に攻撃できない「相互確証破壊(MAD)」の論理です。シェリング(1960年)はゲーム理論を応用し、あえて自らの選択肢をなくすコミットメントや「何かを偶然に委ねる威嚇」のような手法で信憑性を高められるとしました。同盟国が攻撃されれば報復するという「拡大抑止」、すなわち核の傘では信憑性が特に問題となり、米韓同盟や日米同盟が代表的な事例です。ウォルツ(1981年)は核拡散がかえって抑止を通じて平和をもたらしうるという論争的な主張も行いました。
検証と批判
ジョージとスモーク(1974年)は米国外交の事例を分析し、抑止の失敗は珍しくなく、相手が威嚇を迂回したり限定的な挑発を選んだりすることが多いと示しました。ジャーヴィス(1979年)は抑止理論が誤認と認知バイアスを無視していると指摘し、リーボウとスタイン(1989年)は指導者が国内政治上の脆弱性からリスクを冒すとき合理的抑止は失敗すると批判しました。一方アケンとスナイダル(1989年)は、合理的抑止理論は事例研究の批判にもかかわらず有用な演繹理論だと反論しました。フィアロン(1995年)は私的情報とはったりの誘因が戦争の合理的な原因となることを示し、抑止研究に理論的基盤を加えました。近年はサイバー空間、宇宙、グレーゾーン紛争のように帰属が不明確で報復の基準があいまいな領域で抑止をどう適用するかが中心的な争点です。安全保障のジレンマと同様に、抑止の強化が相手に脅威と映りうることも継続的な課題です。
よくある質問
- 抑止理論を簡単に言うと?
- 相手が攻撃すれば利益よりはるかに大きな損害を与えると事前にはっきり示し、相手が初めから攻撃しようと思わないようにする戦略を説明する理論です。
- 抑止が成功するには何が必要ですか?
- 威嚇を実行する能力、実際に実行するという信憑性、そしてその意思を相手に明確に伝える意思疎通が必要です。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
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