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神聖な価値

🏛️ 政治・行政学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
神聖な価値とは、人々がお金や物質的な利益と決して引き換えにできないとみなす価値をいいます。生命、信仰、祖国の土地、家族、名誉などが代表的です。フィリップ・テトロックらは、こうした価値をお金と比べる「タブーの取引」を提案するだけで、人々が道徳的な憤りを感じることを示しました。スコット・アトランとジェレミー・ギンジズらは、神聖な価値がかかわる紛争では、物質的な見返りがかえって反発を強めることを報告しました。
目次
  1. 1. 概念とタブーの取引
  2. 2. 紛争と逆効果
  3. 3. 脳の仕組みと政治的な含意
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

概念とタブーの取引

社会学者エミール・デュルケーム(1912年)は、社会が日常的な「俗」と区別される「聖」の領域をつくると考えました。バロンとスプランカ(1997年)は、人々がどんな代価を受けても手放そうとしない「保護された価値」をもっており、こうした価値では結果より行為そのものが重視されることを示しました。テトロックら(2000年)は、神聖な価値をお金と比べる「タブーの取引」、たとえば臓器の売買や養子縁組の権利の売買を検討するだけで、人々が怒り、そうした考えをもった人を道徳的に非難し、自らを「浄化」しようとする行動をとることを報告しました。テトロック(2003年)はこれを、神聖な価値を守ろうとする「タブー認知」としてまとめました。

紛争と逆効果

ギンジズら(2007年)は、イスラエルの入植者とパレスチナの住民を調査しました。聖地や帰還権のように神聖な価値がかかわる争点について、和平案にお金や経済的な補償を加えると、かえって怒りや暴力の支持が強まりました。一方、相手が自らの神聖な価値について象徴的な譲歩をしたり、歴史的な過ちを公式に謝罪したりする提案には反発が減りました。アトランとギンジズ(2012年)は、神聖な価値に献身する人々は、費用と利益を計算せずに大きな犠牲をいとわない「献身的行為者」になりうると説明しました。これが、合理的な取引のモデルだけでは一部の紛争を解決しにくい理由です。

脳の仕組みと政治的な含意

バーンズら(2012年)は、人々が神聖な価値についての文を処理するとき、費用と利益をはかる領域より、規則や善悪を判断する領域のほうが強く活性化するという脳画像の結果を報告しました。つまり神聖な価値は、取引の対象ではなく守るべき規則のように処理されます。神聖な価値は道徳基盤理論の「神聖」の基盤ともつながり、中絶や銃規制のような争点が感情的分極化を強める理由を説明するのに使われています。研究者たちは、こうした争点では実利的な見返りより、相手の価値を尊重する象徴的な行動のほうが交渉の扉を開きうると提案しています。

よくある質問

神聖な価値を簡単に言うと?
お金や利益とは決して引き換えにできないとみなす価値です。生命、信仰、祖国の土地などがその例です。
なぜお金で解決しようとすると逆効果になるのですか?
神聖な価値をお金と比べること自体が侮辱と感じられて怒りを招くため、象徴的な譲歩や謝罪のほうが効果的なことがあるからです。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Baron, J., & Spranca, M. (1997). Protected values. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 70(1), 1–16. どんな代価とも交換しようとしない「保護された価値」を扱った原典で、概念の根を見るのに参考になります。
  2. Tetlock, P. E., Kristel, O. V., Elson, S. B., Green, M. C., & Lerner, J. S. (2000). The psychology of the unthinkable: Taboo trade-offs, forbidden base rates, and heretical counterfactuals. Journal of Personality and Social Psychology, 78(5), 853–870. タブーの取引に対する道徳的憤りを示した実験で、反応のしかたを見るのに役立ちます。
  3. Tetlock, P. E. (2003). Thinking the unthinkable: Sacred values and taboo cognitions. Trends in Cognitive Sciences, 7(7), 320–324. 神聖な価値とタブー認知を簡潔にまとめた論文で、理論の概要を見るのに参考になります。
  4. Ginges, J., Atran, S., Medin, D., & Shikaki, K. (2007). Sacred bounds on rational resolution of violent political conflict. Proceedings of the National Academy of Sciences, 104(18), 7357–7360. 物質的な見返りがかえって反発を強めることを示した中東の研究で、紛争の交渉を見るのに役立ちます。
  5. Atran, S., & Ginges, J. (2012). Religious and sacred imperatives in human conflict. Science, 336(6083), 855–857. 宗教的・神聖な価値が紛争を強めるしかたをまとめた論文で、全体像を見るのに参考になります。
  6. Berns, G. S., Bell, E., Capra, C. M., Prietula, M. J., Moore, S., Anderson, B., Ginges, J., & Atran, S. (2012). The price of your soul: Neural evidence for the non-utilitarian representation of sacred values. Philosophical Transactions of the Royal Society B, 367(1589), 754–762. 神聖な価値が費用計算ではなく規則として処理されることを示した脳画像研究で、神経の仕組みを見るのに役立ちます。
  7. Durkheim, É. (1912/1995). The Elementary Forms of Religious Life (K. E. Fields, Trans.). New York: Free Press. 聖と俗の区別を示した古典で、概念の社会学的背景を見るのに参考になります。

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この記事は2026年10月27日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。