発見と名前
1901年、化学者の高峰譲吉と助手の上中啓三は、ウシの副腎から血圧を上げる物質を世界で初めて結晶として取り出し、「アドレナリン」の商品名で発売しました。同じころ米国のジョン・ジェイコブ・エイベルも同じ物質を研究し「エピネフリン」と呼びました。どちらも「腎臓の上(副腎)」を意味し、ラテン語由来がアドレナリン、ギリシャ語由来がエピネフリンです。日本では長く米国式のエピネフリンが薬局方名でしたが、2006年に高峰の功績を踏まえアドレナリンに改められました。純粋な形で単離された最初のホルモンとされています。
闘争・逃走反応
1915年、ハーバード大学の生理学者ウォルター・キャノンは、動物が脅威を感じると交感神経と副腎が連動して戦うか逃げる準備をすると説明し、「闘争・逃走反応」という言葉を生みました。アドレナリンが出ると数秒で心臓が速く強く打ち、気管支が広がり、肝臓のグリコーゲンが分解されて血糖が上がり、瞳孔が開き、消化管への血流は減ります。近縁のノルアドレナリンは主に神経末端で血管を収縮させ覚醒を高めます。長期的なストレス対応はコルチゾールが担い、アドレナリンは「即時反応」担当です。危険がないのにこの反応が突然起こるのがパニック発作の中心的な症状です。
医薬品としてのアドレナリン
アドレナリンはWHOの必須医薬品です。ピーナッツやハチ毒などによるアナフィラキシーでは、太ももの筋肉への注射が第一選択の治療で、リスクのある人は自己注射薬(エピペン)を携帯します。心停止の蘇生にも使われ、局所麻酔薬に混ぜて出血を抑えることもあります。一方、褐色細胞腫のようにアドレナリンを過剰に作る腫瘍は発作的な高血圧や動悸を起こします。俗に言う「アドレナリン中毒」は医学用語ではなくスリルを好む傾向を指す表現で、その快感にはドーパミンも関わっています。
この記事は一般的な健康情報であり、診断や治療に代わるものではありません。症状が続く場合は医師に相談してください。
よくある質問
- アドレナリンとエピネフリンは別の物質ですか?
- 同じ物質です。副腎を意味するラテン語とギリシャ語から来た名前がそれぞれ使われているだけです。
- エピペンを使った後も病院に行く必要がありますか?
- はい。効果は15〜20分ほどと短く、症状が再び現れることがあるため、注射後も救急車を呼んで受診してください。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Cannon, W. B. (1915). Bodily Changes in Pain, Hunger, Fear and Rage. D. Appleton and Company.
- Takamine, J. (1901). The isolation of the active principle of the suprarenal gland. The Journal of Physiology, 27(Suppl), xxix–xxx.
- Shaker, M. S., et al. (2020). Anaphylaxis—a 2020 practice parameter update. Journal of Allergy and Clinical Immunology, 145(4), 1082–1123.
