概念の形成
ザイアンス(1980年)は「選好に推論はいらない」と主張し、感情的な反応は認知的な評価より先に、しかも速く生じうると考えました。ダマシオ(1994年)はソマティック・マーカー仮説によって、感情の信号が合理的な決定を助ける役割を果たすと説明しました。フィッシュホフら(1978年)のリスク認知研究は、現実にはリスクと便益がおおむねともに高い技術についても、人々はリスクが大きいと見ると便益は小さいと判断する逆相関を見いだしました。アルハカミとスロヴィック(1994年)は、この逆相関が対象に対する全体的な好感度によって説明されると報告しました。
中心的な実験
フィニュケインら(2000年)は、原子力、天然ガス、食品保存料のような対象について時間的な圧力をかけると、リスクと便益の判断の逆相関がより強くなることを示しました。また、ある技術の便益が大きいという情報だけを与えても人々はその技術のリスクをより低く評価し、リスクが小さいという情報だけを与えても便益をより高く評価しました。スロヴィックら(2002年)はこれらの結果をまとめ、人々は対象についた感情の「タグ」を参照して素早く判断するという感情ヒューリスティックの概念を示しました。ロッテンストライクとシー(2001年)は、感情を強く呼び起こす結果ほど人々が確率の違いに鈍感になる「確率の無視」を報告し、シー(1998年)は別々に評価するとき感情的によく見える選択肢が客観的な価値は低くても高く評価される事例を示しました。
理論的な位置と批判
ローウェンスタイン、ウェーバー、シー、ウェルチ(2001年)は「感情としてのリスク」仮説によって、危険な状況での人々の行動は結果の確率や大きさについての認知的評価より、その瞬間の感情に大きく左右されうると主張しました。スロヴィックら(2004年)はリスクを分析として扱う系と感覚として扱う系を区別し、カーネマン(2011年)は感情ヒューリスティックを速く直観的なシステム1の代表的な働きとして紹介しました。一方でパフル、ヘルトヴィヒ、シュタインマン(2012年)は、人々のリスク判断を予測する際、感情よりも個人が経験した事例の利用可能性のほうがよく当てはまる場合が多いと報告し、感情ヒューリスティックが他のヒューリスティックとどう区別されるかについての議論が続いています。この概念はプロスペクト理論やフレーミング効果とともに、判断と意思決定研究の主要なテーマとして扱われます。
よくある質問
- 感情ヒューリスティックを簡単に言うと?
- 好きなものは安全で役に立つと感じ、嫌いなものは危険で役に立たないと感じる傾向です。よく考える前に感情が判断を導く現象です。
- 感情ヒューリスティックと利用可能性ヒューリスティックはどう違いますか?
- 感情ヒューリスティックは対象への好き嫌いの感情を判断の手がかりにするもので、利用可能性ヒューリスティックは事例がどれだけ思い浮かびやすいかを手がかりにするものです。両者はともに働くこともあり、どの場面でどちらが判断をよりよく説明するかが研究されています。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Zajonc, R. B. (1980). Feeling and thinking: Preferences need no inferences. American Psychologist, 35(2), 151–175.
- Fischhoff, B., Slovic, P., Lichtenstein, S., Read, S., & Combs, B. (1978). How safe is safe enough? A psychometric study of attitudes towards technological risks and benefits. Policy Sciences, 9(2), 127–152.
- Damasio, A. R. (1994). Descartes' Error: Emotion, Reason, and the Human Brain. New York: Putnam.
- Alhakami, A. S., & Slovic, P. (1994). A psychological study of the inverse relationship between perceived risk and perceived benefit. Risk Analysis, 14(6), 1085–1096.
- Hsee, C. K. (1998). Less is better: When low-value options are valued more highly than high-value options. Journal of Behavioral Decision Making, 11(2), 107–121.
- Finucane, M. L., Alhakami, A., Slovic, P., & Johnson, S. M. (2000). The affect heuristic in judgments of risks and benefits. Journal of Behavioral Decision Making, 13(1), 1–17.
- Loewenstein, G. F., Weber, E. U., Hsee, C. K., & Welch, N. (2001). Risk as feelings. Psychological Bulletin, 127(2), 267–286.
- Rottenstreich, Y., & Hsee, C. K. (2001). Money, kisses, and electric shocks: On the affective psychology of risk. Psychological Science, 12(3), 185–190.
- Slovic, P., Finucane, M. L., Peters, E., & MacGregor, D. G. (2002). The affect heuristic. In T. Gilovich, D. Griffin, & D. Kahneman (Eds.), Heuristics and Biases (pp. 397–420). Cambridge: Cambridge University Press.
- Slovic, P., Finucane, M. L., Peters, E., & MacGregor, D. G. (2004). Risk as analysis and risk as feelings. Risk Analysis, 24(2), 311–322.
- Kahneman, D. (2011). Thinking, Fast and Slow. New York: Farrar, Straus and Giroux.
- Pachur, T., Hertwig, R., & Steinmann, F. (2012). How do people judge risks: Availability heuristic, affect heuristic, or both? Journal of Experimental Psychology: Applied, 18(3), 314–330.
