認知負荷理論とは
認知負荷理論(cognitive load theory)とは、一度に扱える情報の量が限られているワーキングメモリの特徴をふまえて、学習教材や授業をどう設計すれば学びが進むかを説明する理論です。オーストラリアの教育心理学者ジョン・スウェラーが1988年の論文で基本的な考え方を示しました。情報処理の立場に立つ認知理論に根ざしています。
- 意味
- ワーキングメモリの限界をふまえた学習設計の理論
- 提唱者
- ジョン・スウェラー(1988)
- 分野
- 教育心理学、インストラクショナルデザイン
- 主な概念
- ワーキングメモリ、長期記憶のスキーマ、3種類の認知負荷
基本的な考え方
新しい情報はワーキングメモリで処理されますが、ワーキングメモリが一度に扱える要素はごくわずかです。一方、長期記憶にはほぼ無限に知識を蓄えられ、その知識がスキーマとしてよく整理されていると、多くの要素をひとまとまりとして扱えるため、ワーキングメモリの負担が減ります。そのため学習の目標はスキーマをつくり自動化することであり、授業はワーキングメモリを無駄づかいさせないように設計すべきだと考えます。
3種類の認知負荷
スウェラー、ファン・メリエンボアー、パース(1998)は、認知負荷を3種類に整理しました。
| 種類 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 内在的負荷 | 学習内容そのものの複雑さから生じる負荷 | 多くの概念が絡み合う化学反応式 |
| 外在的負荷 | 提示のしかたが悪いために生じる不要な負荷 | 図と説明が離れている教科書 |
| 学習関連負荷(本質的負荷) | スキーマの形成に使われる生産的な負荷 | 例題を比べて原理を見つける活動 |
よい授業とは、外在的負荷を減らし、生まれた余裕を学習関連負荷に向けさせる授業です。
研究が示していること
初心者にたくさん問題を解かせると、なぜかえって学びが少なくなるのでしょうか。スウェラー(1988)は、初心者が目標と現在の状態の差を少しずつ縮める「手段-目標分析」で問題を解くと、正解にたどり着けたとしても、ワーキングメモリがその探索に使われてしまい、問題の構造を学ぶスキーマの形成が妨げられると考えました。ここから、解き方を一歩ずつ示す「例題(worked example)」が初心者に効果的だという原理が生まれました。
授業設計の原理
- 例題効果:初心者には、すぐに問題を解かせるより先に、解き方の例題を学ばせます。
- 注意分散効果:図と説明を離して置くと、両者を結びつけるだけで負荷が大きくなります。説明は図のすぐそばにまとめます。
- 冗長性効果:同じ内容を文字と音声でそのままくり返すと、かえって妨げになることがあります。
- 熟達化反転効果:初心者に役立つ手がかりが、熟達者には不要な負荷になることがあります。力がついたら支援を少しずつ減らします。
学ぶ側としては、多くの内容を一度に見るより、要点を分けて身につけ、想起練習(テスト効果)や分散学習でスキーマをしっかりつくるとよいでしょう。学習者の探究を重んじる構成主義の学習理論とは、初心者にどれだけ手引きを与えるかについて見方が分かれることもあります。
よくある質問
- 認知負荷理論とは?
- ワーキングメモリの限界をふまえて、学習教材や授業をどう設計すべきかを説明する教育心理学の理論です。ジョン・スウェラーが提唱しました。
- 内在的・外在的・学習関連負荷の違いは?
- 内在的負荷は内容そのものの複雑さ、外在的負荷は悪い提示のしかたによる不要な負担、学習関連負荷はスキーマづくりに使われる生産的な負担です。
- 勉強にどう生かせますか?
- まず例題で原理をつかみ、図と説明を一緒に見て、内容を分けてくり返し思い出すと、ワーキングメモリの負担を減らせます。
参考文献
- Sweller, J. (1988). Cognitive load during problem solving: Effects on learning. Cognitive Science, 12(2), 257–285. https://doi.org/10.1207/s15516709cog1202_4
- Sweller, J., van Merriënboer, J. J. G., & Paas, F. G. W. C. (1998). Cognitive architecture and instructional design. Educational Psychology Review, 10(3), 251–296. https://doi.org/10.1023/A:1022193728205
