概念と背景
20世紀初めのシカゴ学派は、貧困、頻繁な転居、多様な人種構成といった条件が地域共同体の結びつきを弱め、犯罪を増やすという社会解体論を示しました。サンプソンとグローブス(1989年)はイギリスのデータでこの理論を検証し、地域の構造的条件が友人ネットワーク、若者集団の監督、組織への参加を通じて犯罪に影響すると報告しました。サンプソン、ローデンブッシュ、アールズ(1997年)はさらに進んで、近隣どうしが互いに信頼し助け合う関係があり、子どもが学校をさぼったり壁に落書きをしたりしたときに住民が乗り出すと期待できる程度を「集合的効力感」と定義しました。
シカゴ研究の発見
サンプソンらはシカゴの343地区の住民約8,800人を調査し、集合的効力感が高い地域ほど暴力犯罪や被害経験が少ないと報告しました。とくに、貧困や居住の不安定といった構造的な不利が暴力に及ぼす影響の多くが、集合的効力感を通じて現れていました。サンプソン、モレノフ、アールズ(1999年)は、集合的効力感が単なるネットワークの量を意味する社会関係資本とは異なること、また周辺地域の集合的効力感も子どもの環境に影響するという空間的効果を示しました。サンプソン(2012年)は数十年の研究をまとめ、近隣効果が時間がたっても持続すると主張しました。
議論と広がり
ブラウニング、ファインバーグ、ディーツ(2004年)は、密な親しい関係がかえって犯罪をした隣人をかばい統制を弱める「社会組織の逆説」を指摘し、ネットワークが多ければ集合的効力感が常に高いわけではないと考えました。サンプソンら(2002年)は近隣効果の研究を検討し、地域の構造よりもその内部の社会的過程を測ることが重要だと整理しました。一方、心理学者バンデューラ(2000年)は、集団の成員がともに目標を達成できると信じる程度を「集団的効力感」と呼びましたが、これは自己効力感を集団レベルに広げた概念です。集合的効力感は、無秩序を強調する割れ窓理論と比較され、地域の犯罪予防の議論に広く使われています。
よくある質問
- 集合的効力感を簡単に言うと?
- 近所どうしが互いに信頼し、地域に問題が起これば誰かが乗り出して解決してくれると期待できる地域の力です。こうした力が強い地域ほど犯罪が少ないという研究があります。
- 集合的効力感と社会関係資本はどう違いますか?
- 社会関係資本は人々のあいだのネットワークや関係の資源を指します。集合的効力感は、その関係をもとに実際に共通の目的のために行動しようとする意志と期待に焦点を当てます。ネットワークが多くても行動する意志が弱ければ、集合的効力感は低くなりえます。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Sampson, R. J., Raudenbush, S. W., & Earls, F. (1997). Neighborhoods and violent crime: A multilevel study of collective efficacy. Science, 277(5328), 918–924. 集合的効力感の概念を初めて示したシカゴの研究で、概念の定義と測定方法を知りたいときにまず参考になります。
- Sampson, R. J., & Groves, W. B. (1989). Community structure and crime: Testing social-disorganization theory. American Journal of Sociology, 94(4), 774–802. 社会解体論を実証的に検証した研究で、集合的効力感の概念がどのような理論的背景から生まれたかを理解するのに参考になります。
- Sampson, R. J., Morenoff, J. D., & Earls, F. (1999). Beyond social capital: Spatial dynamics of collective efficacy for children. American Sociological Review, 64(5), 633–660. 社会関係資本と集合的効力感の違いや近隣地域どうしの空間的影響を扱っており、概念をより深く理解するのに役立ちます。
- Sampson, R. J., Morenoff, J. D., & Gannon-Rowley, T. (2002). Assessing "neighborhood effects": Social processes and new directions in research. Annual Review of Sociology, 28, 443–478. 近隣効果研究の全体をまとめたレビューで、集合的効力感がこの分野でどのような位置にあるかをつかむのに参考になります。
- Browning, C. R., Feinberg, S. L., & Dietz, R. D. (2004). The paradox of social organization: Networks, collective efficacy, and violent crime in urban neighborhoods. Social Forces, 83(2), 503–534. 密なネットワークがかえって犯罪者を守り集合的効力感を弱めうるという逆説を扱っており、概念の複雑な側面がわかります。
- Bandura, A. (2000). Exercise of human agency through collective efficacy. Current Directions in Psychological Science, 9(3), 75–78. 心理学でいう集団の効力信念を短くまとめており、社会学の集合的効力感とどう違うかを比べるときに参考になります。
- Sampson, R. J. (2012). Great American City: Chicago and the Enduring Neighborhood Effect. Chicago: University of Chicago Press. 数十年にわたるシカゴ研究を集大成した本で、集合的効力感と近隣効果を幅広く学びたいときに役立ちます。
