デュエムによる物理学実験の分析
デュエム(1906年)は、物理学者が実験で検証しているのは孤立した仮説ではなく理論の全体だと考えました。予測が観察と食い違えば、理論の集まりのうち少なくとも一つが誤っていることがわかるだけで、どれを修正すべきかは論理が教えてくれません。そのため彼は、競合する二つの仮説の一方を決定的に退ける「決定実験」は物理学では不可能だと主張し、光の粒子説と波動説を分けたとされるフーコーの実験を例に挙げました。デュエムはこうした選択を科学者の「良識(bon sens)」に委ねました。アリュー(1984年)は、デュエムのテーゼが物理学に限られた比較的穏やかな主張であった点を強調しています。
クワインの全体論と反証主義
クワイン(1951年)は「経験主義の二つのドグマ」で分析命題と総合命題の区別および還元主義を批判し、私たちの知識は周縁でのみ経験と接する一つの網の目だと主張しました。網のどこかを十分に調整すればどんな言明も保持でき、論理法則でさえ原理的には修正されうるという強い全体論です。この主張は、一つの反証事例で理論を棄却すべきだとするポパー(1959年)の反証主義と緊張を生みました。ポパーは補助仮説をその場しのぎで付け加えることを方法論的規則として禁じて応じました。グリュンバウム(1960年)は決定実験が原理的に不可能だという強い解釈に反対し、ハーディング(1976年)はこの論争の主要な論文を一冊にまとめました。
決定不全性とその後の応答
デュエム-クワイン・テーゼは、同じ証拠が異なる理論を同じように支持しうるという「理論の決定不全性」の議論へとつながりました。クーン(1962年)は、異常現象が現れても科学者がパラダイムを容易に捨てない理由を説明し、パラダイム転換の理論を示しました。ラカトシュ(1970年)は、理論の「堅い核」は守りつつ補助仮説からなる「防御帯」を調整し、新しい予測を生む前進的な研究プログラムかどうかで評価すべきだと提案しました。ラウダン(1990年)は、決定不全性が科学の合理性を崩すという誇張された主張を批判しました。ベイズ主義者は、ハウソンとアーバック(2006年)やストレヴンス(2001年)のように、事前確率を使って外れた予測の責任を仮説と補助仮説に配分する方法を示しました。スタンフォード(2006年)は、科学者がまだ考えついていない代替理論の存在を新たな決定不全性の問題として提起しました。
よくある質問
- デュエム-クワイン・テーゼを簡単に言うと?
- 実験結果が予測と違ったとき、検証しようとした仮説が誤っているのか、測定装置や他の前提が誤っているのかを、論理だけでは決められないという主張です。仮説は常にいくつもの前提と束ねて検証されるからです。
- デュエム-クワイン・テーゼは科学が信用できないという意味ですか?
- そうではありません。どの前提を直すかを論理だけでは決められないということであり、科学的判断が恣意的だという意味ではありません。ラカトシュの研究プログラム論やベイズ主義のように、予測の成功や証拠の蓄積を基準に合理的に判断する方法が示されてきました。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
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- Popper, K. R. (1959). The Logic of Scientific Discovery. London: Hutchinson.
- Grünbaum, A. (1960). The Duhemian argument. Philosophy of Science, 27(1), 75–87.
- Kuhn, T. S. (1962). The Structure of Scientific Revolutions. Chicago: University of Chicago Press.
- Harding, S. G. (Ed.). (1976). Can Theories Be Refuted? Essays on the Duhem–Quine Thesis. Dordrecht: Reidel.
- Lakatos, I. (1970). Falsification and the methodology of scientific research programmes. In I. Lakatos & A. Musgrave (Eds.), Criticism and the Growth of Knowledge (pp. 91–196). Cambridge: Cambridge University Press.
- Laudan, L. (1990). Demystifying underdetermination. In C. W. Savage (Ed.), Scientific Theories (pp. 267–297). Minneapolis: University of Minnesota Press.
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