感情の承認とは
感情の承認(emotional validation、バリデーション)とは、相手が感じている気持ちがその人の状況や経験からみて理解できる(もっともだ)と認め、それを言葉や態度で伝えることです。心理学者マーシャ・リネハンが境界性パーソナリティ障害の治療のために開発した弁証法的行動療法(DBT)の中心的な技法として体系化し、いまでは子育てや夫婦カウンセリングでも広く使われています。
承認は「同意」ではない
承認は、相手の考えや行動が正しいと賛成することではありません。「テストがうまくいかなくて、くやしくてドアを強く閉めたんだね」と気持ちは理解できると認めながら、ドアを強く閉める行動は変えようと話すことができます。リネハンはこれを受容と変化のバランスと呼びました。
リネハンの承認の6つのレベル
- 注意を向ける:スマホを置いて、しっかり聞きます。
- 正確に映しかえす:「すごくさびしかったってことだね」
- 言葉にされていない気持ちを読みとる:表情や状況から気持ちを推し量って伝えます。
- 過去の経験に照らして理解する:「前にあんなことがあったから、不安になるのも無理はないよ」
- いまの状況で自然な反応だと認める:「その状況なら、だれだって腹が立つよ」
- 対等に、ありのままに接する:相手を壊れものではなく、対等な人として扱います。
気持ちを否定する言葉、承認する言葉
| 否定する言葉 | 承認する言葉 |
|---|---|
| 「そんなの怖くないでしょ」 | 「はじめてだと怖いよね」 |
| 「泣くほどのことじゃない」 | 「くやしくて涙が出ちゃうんだね」 |
| 「みんな大変なんだから」 | 「最近、ほんとうにしんどかったね」 |
「そう感じるのも当然だよ」のひと言が、心と体を落ちつかせます。シェンクとフルゼッティ(2011年)の実験では、承認する反応を受けた人は、否定する反応を受けた人にくらべて心拍数や否定的な感情の上昇が小さくなりました。「空気を読む」ことが重んじられ、気持ちを口に出しにくい日本の家庭でこそ、言葉にして認めることの意味は大きいでしょう。
家族の会話での使い方
子どもには感情コーチングの「気持ちに名前をつける」と組みあわせ、夫婦のあいだでは、すぐに解決策を出す前にまず気持ちを認めるのがコツです。そのあとでアイメッセージで自分の考えを伝えると、会話が防衛的になりにくくなります。
よくある質問
- 承認すると、まちがった行動も認めることになりませんか?
- なりません。気持ちは理解できると認めつつ、行動は別に話しあうことができます。
- 共感とどうちがうのですか?
- 共感は相手の気持ちをともに感じること、承認はその気持ちがもっともだと相手に伝える行動に重点があります。
- 自分自身にもできますか?
- はい。「この状況なら不安になって当然だ」と自分を認めるセルフ・バリデーションも、DBTで大切にされているスキルです。
参考文献
- Linehan, M. M. (1993). Cognitive-behavioral treatment of borderline personality disorder. New York: Guilford Press.
- Linehan, M. M. (1997). Validation and psychotherapy. In A. C. Bohart & L. S. Greenberg (Eds.), Empathy reconsidered: New directions in psychotherapy (pp. 353–392). Washington, DC: American Psychological Association.
- Shenk, C. E., & Fruzzetti, A. E. (2011). The impact of validating and invalidating responses on emotional reactivity. Journal of Social and Clinical Psychology, 30(1), 20–36.
