マートンの緊張理論から一般緊張理論へ
マートン(1938年)は、社会が富や成功といった文化的目標を強調しながら、一部の層にはその目標を達成する合法的な手段を与えないときにアノミーと逸脱が生じると考えました。この緊張理論は主に下層階級の犯罪を説明するマクロな理論で、中産階級の犯罪や、目標を達成できなくても犯罪をしない人が多いことを説明しにくいと批判されました。アグニュー(1992年)は緊張の範囲を広げ、個人の感情的な反応に焦点を当てて「一般緊張理論」を提示しました。この理論は、犯罪は非行仲間から学ぶものだとする分化的接触理論や、社会的な絆が弱いために生じるとする統制理論とは異なり、否定的な関係や経験が人を犯罪へ「押しやる」と考えます。
三つの緊張と否定的感情
アグニュー(1992年)は緊張の源を三つに分けました。第一はお金、地位、公正な扱いといった肯定的な目標を達成できないこと、第二は家族の死や別れのように大切なものを失うこと、第三は虐待、いじめ、差別のように否定的な刺激を受けることです。こうした緊張は怒り、欲求不満、抑うつ、不安といった否定的感情を生みますが、とくに他人を責めるように仕向ける怒りが犯罪と強く結びつきます。しかし緊張を経験するすべての人が犯罪をするわけではありません。社会的支援、問題解決能力、自己統制力があれば合法的に対処しやすく、非行仲間がいたり犯罪を正当化する信念があったりすると犯罪で対処する可能性が高まります。アグニュー(2001年)は、不当だと感じられ、強度が大きく、社会的統制が弱い状況で生じ、犯罪による対処へ圧力をかける緊張ほど犯罪につながりやすいと具体化しました。
実証研究と応用
アグニューとホワイト(1992年)は青少年のデータを分析し、否定的な生活上の出来事や関係が非行や薬物使用と関係しているという結果を報告しました。ブロイディ(2001年)は、緊張が怒りのような否定的感情を通じて犯罪につながる経路を検証し、部分的な支持を得ました。ブロイディとアグニュー(1997年)は、男性と女性では経験する緊張の種類と感情の反応が異なり、男性は怒りを外に表して暴力に、女性は抑うつや罪悪感をともに感じて自己破壊的な行動につながりやすいと説明しました。アグニュー(2006年)は理論を、個人だけでなく地域や社会レベルの犯罪率の違いを説明するところまで拡張しました。一般緊張理論は今日、学校暴力、ネットいじめ、ヘイトクライムなど多様な研究に応用されています。
よくある質問
- 一般緊張理論を簡単に言うと?
- 人が大きなストレスを受けて怒ったり挫折したりしたとき、それを健全に解消する方法がなければ犯罪や非行をしてしまうことがある、という理論です。目標を達成できないこと、大切なものを失うこと、虐待やいじめを受けることが代表的なストレスです。
- マートンの緊張理論と一般緊張理論はどう違いますか?
- マートンは社会構造のために成功目標を達成できないことを中心に、階層間の犯罪の違いを説明しました。アグニューの一般緊張理論は喪失や否定的な扱いまで含め、個人が感じる怒りなどの感情と対処の仕方に焦点を当てます。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Merton, R. K. (1938). Social structure and anomie. American Sociological Review, 3(5), 672–682. 一般緊張理論のルーツとなったマートンの古典的緊張理論で、二つの理論の違いを比べるときに参考になります。
- Agnew, R. (1992). Foundation for a general strain theory of crime and delinquency. Criminology, 30(1), 47–88. 一般緊張理論を初めて示した原論文で、三つの緊張の類型と否定的感情の役割を最初から理解するのに参考になります。
- Agnew, R., & White, H. R. (1992). An empirical test of general strain theory. Criminology, 30(4), 475–500. 青少年のデータで理論を初めて検証した研究で、緊張が非行や薬物使用に与える影響をデータで見るのに役立ちます。
- Broidy, L., & Agnew, R. (1997). Gender and crime: A general strain theory perspective. Journal of Research in Crime and Delinquency, 34(3), 275–306. 男女で経験する緊張と感情の反応が異なるため犯罪率の差が生じるという分析で、性差を理解するのに参考になります。
- Agnew, R. (2001). Building on the foundation of general strain theory: Specifying the types of strain most likely to lead to crime and delinquency. Journal of Research in Crime and Delinquency, 38(4), 319–361. どのような緊張がとくに犯罪につながりやすいかを具体化した論文で、理論の発展した形を知るのに役立ちます。
- Broidy, L. M. (2001). A test of general strain theory. Criminology, 39(1), 9–36. 怒りのような否定的感情が緊張と犯罪をつなぐかを検証した研究で、理論の中核的な経路を確かめるのに参考になります。
- Agnew, R. (2006). Pressured into Crime: An Overview of General Strain Theory. Los Angeles: Roxbury. 理論全体をわかりやすくまとめた概説書で、個人・地域・社会レベルの応用まで一度に見渡すのに役立ちます。
