予言の歴史
1960年代、物理学者たちは弱い力を伝える粒子がなぜ重いのかを説明できずにいました。1964年、英国のピーター・ヒッグス、ベルギーのフランソワ・アングレールとロベール・ブルー、そしてジェラルド・グラルニク、カール・ヘーゲン、トム・キッブルが、ほぼ同時に「対称性が自発的に破れた場」が粒子に質量を与えるという理論を発表しました。ヒッグスはこの場に対応する新粒子が存在するはずだと明記し、粒子は彼の名で呼ばれるようになります。このしくみは素粒子と力をまとめた「標準模型」の最後のピースとなりました。
2012年の発見
ヒッグス粒子は重く、すぐに崩壊するため見つけるのは困難でした。ノーベル賞学者レオン・レーダーマンは1993年の著書で「神の粒子」と名づけましたが、本当は「いまいましい粒子」と呼びたかったという逸話もあります。フランスとスイスの国境地下にある周長27kmのLHCが稼働したのち、2012年7月4日、CERNのATLASとCMSの両実験が質量約125GeVの新粒子の発見を発表しました。ヒッグスとアングレールは2013年にノーベル物理学賞を受賞し、2011年に亡くなったブルーは受賞できませんでした。
質量の起源と残る謎
ヒッグス場は宇宙を満たす水あめのような媒質にたとえられます。光子のようにヒッグス場と相互作用しない粒子は質量をもたず、強く相互作用する粒子ほど重くなります。ただし私たちの体の質量の大半は、ヒッグス場ではなく陽子の中でクォークを結びつける強い力のエネルギーに由来します。発見後も、ダークマターの正体、重力と量子論の統一(相対性理論との矛盾)、ヒッグス質量がなぜこの値なのかといった問いが残り、次世代のより大きな加速器が議論されています。ビッグバン直後に宇宙が冷えるなかでヒッグス場が「オン」になったと考えられています。
よくある質問
- なぜ「神の粒子」と呼ばれるのですか?
- レオン・レーダーマンの1993年の一般向け書籍のタイトルに由来する愛称で、宗教的な意味はなく、多くの物理学者はこの呼び方を好みません。
- ヒッグス粒子がすべての質量を生むのですか?
- 素粒子の質量は説明しますが、原子の質量の大部分は強い力の結合エネルギーに由来します。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Higgs, P. W. (1964). Broken symmetries and the masses of gauge bosons. Physical Review Letters, 13(16), 508–509.
- ATLAS Collaboration. (2012). Observation of a new particle in the search for the Standard Model Higgs boson with the ATLAS detector at the LHC. Physics Letters B, 716(1), 1–29.
- CMS Collaboration. (2012). Observation of a new boson at a mass of 125 GeV with the CMS experiment at the LHC. Physics Letters B, 716(1), 30–61.
