国民の定義と中心的な主張
ベネディクト・アンダーソンは1983年の『想像の共同体』で、国民を「本来的に限定され、かつ主権的なものとして想像される政治的共同体」と定義しました。「想像される」のは、最も小さな国民の成員でさえ、同胞の大部分と決して出会うことはないのに、各人の心の中に共同体のイメージが生きているからです。「限定され」ているのは、どの国民も人類全体を含むとは想像しないからで、「主権的」なのは、啓蒙主義と革命の時代に神聖な王朝の正統性が崩れた後に登場したからであり、「共同体」なのは、現実の不平等にもかかわらず深い水平的な同志愛として想像されるからです。アンダーソンにとって想像とは虚偽や捏造ではなく、あらゆる大きな共同体が存在するあり方です。何百万もの人々がなぜこの想像された共同体のために進んで命を捧げるのかという問いが、この本の出発点でした。
出版資本主義と国民意識の形成
アンダーソンは国民意識の起源を、宗教共同体と王朝国家の衰退、そして時間の捉え方の変化に求めました。新聞と小説は、互いに知らない人々が同じ「均質で空虚な時間」の中で同時に生きているという感覚をつくり出しました。決定的なのは「出版資本主義」です。16世紀以降、出版業者がより広い市場を求めてラテン語ではなく俗語で本を刷るようになると、同じ言語で読む読者の共同体が生まれ、これが国民共同体の原型となりました。アンダーソンは、最初のナショナリズムはヨーロッパではなく南北アメリカのクレオール(植民地生まれのヨーロッパ系)の官僚や新聞発行者の間で現れたと主張しました。増補版(1991年)では、植民地国家が人口調査、地図、博物館を通じて被支配地域を分類し可視化することで、のちの脱植民地国民の枠組みをつくったと付け加えました。
他の理論と批判
アンダーソンは、アーネスト・ゲルナー(1983年)やエリック・ホブズボーム(1990年)とともに、国民を近代の産物とみる「近代主義」学派に分類されます。ゲルナーは産業社会が標準化された教育と高文化を必要としたことで国民が生まれたと考え、ホブズボームとレンジャー(1983年)は古くからあるように見える多くの国民的伝統が実は「創られた伝統」であることを明らかにしました。一方、アントニー・スミス(1986年)は、近代の国民はそれ以前のエスニックな共同体や神話、象徴に根ざしているという「エスノ象徴主義」を主張しました。パルタ・チャタジー(1993年)は、アンダーソンが植民地のナショナリズムを西洋がつくった「モジュール」の複製とみなしたと批判し、反植民地ナショナリズムは精神的領域で独自の想像を生み出したと強調しました。マイケル・ビリッグ(1995年)は日常の国旗や「われわれ」という表現が国民を毎日再生産する「日常のナショナリズム」を示し、アパデュライ(1996年)は電子メディアと移住が国境を越える想像の共同体をつくると考えました。シン・ギウク(2006年)は韓国の種族的ナショナリズムの形成をこの枠組みで分析しました。この概念はポストコロニアリズムや社会的アイデンティティの研究で広く用いられています。
よくある質問
- 想像の共同体をわかりやすく言うと?
- 同じ国の人の大部分と実際に会うことはなくても、私たちは一つの国民だと感じます。その帰属意識が新聞、本、学校のような近代的なメディアを通じてつくられたという理論です。
- 「想像された」とは偽物という意味ですか?
- いいえ。アンダーソンは想像を偽りではなく、対面できない大きな共同体が存在するあり方とみなしました。想像された共同体も実際に強い社会的な力をもちます。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Anderson, B. (1983). Imagined Communities: Reflections on the Origin and Spread of Nationalism. London: Verso.
- Anderson, B. (1991). Imagined Communities (Rev. ed.). London: Verso.
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- Hobsbawm, E. J. (1990). Nations and Nationalism since 1780. Cambridge: Cambridge University Press.
- Smith, A. D. (1986). The Ethnic Origins of Nations. Oxford: Blackwell.
- Chatterjee, P. (1993). The Nation and Its Fragments: Colonial and Postcolonial Histories. Princeton, NJ: Princeton University Press.
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- Calhoun, C. (1997). Nationalism. Minneapolis: University of Minnesota Press.
- Brubaker, R. (1996). Nationalism Reframed. Cambridge: Cambridge University Press.
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