登場の背景と中心的主張
近代化論は、第二次世界大戦後に新興独立国が増え、冷戦が始まった時期のアメリカ社会科学で体系化されました。理論的な源流は、合理化を近代の核心とみたマックス・ヴェーバーと、社会を機能的に分化する体系とみたタルコット・パーソンズの構造機能主義です。近代化論者は伝統社会と近代社会を対比し、帰属的地位・拡大家族・農業中心の社会が、業績的地位・核家族・工業中心の社会へ変わると考えました。ダニエル・ラーナー(1958年)は中東の調査から、都市化・識字・マスメディアの普及が「共感能力」を持つ近代的人間をつくると論じ、インケルスとスミス(1974年)は6か国調査で工場と学校が近代的態度を育てると主張しました。
ロストウの段階説とリプセット仮説
ウォルト・ロストウは『経済成長の諸段階』(1960年)で、あらゆる社会が伝統社会→離陸の先行条件→離陸(テイクオフ)→成熟への前進→高度大衆消費の5段階を経ると示しました。副題が「一つの非共産主義宣言」であるように、冷戦期の対外援助政策と密接に結びついていました。政治学ではシーモア・マーティン・リプセット(1959年)が、経済発展と教育水準が高いほど民主主義が生まれ維持されやすいという「リプセット仮説」を唱えました。一方サミュエル・ハンチントン(1968年)は、社会動員が政治の制度化より速く進むと不安定やクーデタが起こりうると警告し、近代化が自動的に秩序を生むという楽観に歯止めをかけました。
批判とその後の論争
1960年代後半から、ラテンアメリカの研究者は従属理論によって近代化論を批判しました。グンダー・フランクは低開発を伝統の名残ではなく、世界資本主義の中心との関係が生んだ結果だと捉え、ウォーラーステインの世界システム論も国家を個別単位として分析する方法を問題にしました。西洋中心主義、単線的な進化論、伝統を発展の障害としかみない視点も批判されました。その後、シュムエル・アイゼンシュタット(2000年)は近代性が多様な形で現れるとする「多様な近代」を、イングルハートとウェルツェル(2005年)は世界価値観調査をもとに経済発展が生存価値から自己表現価値への変化をもたらすとする修正近代化論を提示しました。所得と民主主義の因果関係については、アセモグルら(2008年)のように懐疑的な実証研究もあります。
よくある質問
- 近代化論と従属理論の最大の違いは何ですか?
- 近代化論は低開発の原因を社会内部の伝統的要素に求め、従属理論は世界経済における中心と周辺の不平等な関係に求めます。
- 近代化論は今も使われていますか?
- 単線的な段階論は強く批判されましたが、経済発展と価値観・民主主義の関係を扱う修正近代化論や多様な近代の議論として受け継がれています。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Weber, M. (1905). Die protestantische Ethik und der Geist des Kapitalismus. Archiv für Sozialwissenschaft und Sozialpolitik, 20–21.
- Parsons, T. (1951). The Social System. Glencoe, IL: Free Press.
- Lerner, D. (1958). The Passing of Traditional Society: Modernizing the Middle East. Glencoe, IL: Free Press.
- Lipset, S. M. (1959). Some social requisites of democracy. American Political Science Review, 53(1), 69–105.
- Rostow, W. W. (1960). The Stages of Economic Growth: A Non-Communist Manifesto. Cambridge: Cambridge University Press.
- Inkeles, A., & Smith, D. H. (1974). Becoming Modern. Cambridge, MA: Harvard University Press.
- Huntington, S. P. (1968). Political Order in Changing Societies. New Haven, CT: Yale University Press.
- Frank, A. G. (1967). Capitalism and Underdevelopment in Latin America. New York: Monthly Review Press.
- Eisenstadt, S. N. (2000). Multiple modernities. Daedalus, 129(1), 1–29.
- Inglehart, R., & Welzel, C. (2005). Modernization, Cultural Change, and Democracy. Cambridge: Cambridge University Press.
- Acemoglu, D., Johnson, S., Robinson, J. A., & Yared, P. (2008). Income and democracy. American Economic Review, 98(3), 808–842.
