レジームの定義と形成
クラズナー(1982年)は国際レジームを「国際関係の特定の領域において、行為者の期待が収れんする明示的または暗黙の原則、規範、ルール、意思決定手続き」と定義しました。原則は事実や因果についての信念、規範は権利と義務の基準、ルールは具体的な行動の指針、意思決定手続きは集団的な選択を行う慣行を指します。たとえば関税及び貿易に関する一般協定(GATT)とそれを引き継いだ世界貿易機関は、自由貿易レジームの代表例です。ヤング(1982年)は、レジームは自然に生まれることもあれば、交渉によってつくられることも、大国によって押しつけられることもあると考えました。スタイン(1982年)は、国家が互いに合わせることで利益を得る「調整」の状況と、各自が裏切りたいという誘惑をともに抑えなければならない「協働」の状況でレジームが必要になると、ゲーム理論で説明しました。
覇権後の協力
覇権安定論は、一つの大国が秩序を支えてはじめて国際協力が維持されると考えましたが、1970年代にアメリカが相対的に衰退した後も多くの協力が続いたことは謎でした。コヘイン(1984年)は『覇権後の国際政治経済学』で、レジームが情報を提供し、交渉の費用を下げ、約束を守らない国家の評判コストを高めるため、覇権が弱まっても協力は続きうると主張しました。こうした新自由主義的制度論は、国家が自己利益を追求するというリアリズムの前提を受け入れつつも、制度が協力を可能にすると考えました。これは複合的相互依存の議論とともに、国際政治経済学研究の中心となりました。
三つの学派と批判
ハーゼンクレーファー、マイヤー、リットベルガー(1997年)はレジーム論を三つの学派に整理しました。リアリズム系は、レジームが大国間の権力分布を反映するとみなし、新自由主義系は共通の利益と取引費用の削減を強調し、認知主義あるいはコンストラクティビズム系は、知識、アイデア、アイデンティティがレジームをつくると考えます。ハガードとシモンズ(1987年)も構造的、ゲーム理論的、機能的、認知的アプローチを比較整理しました。一方ストレンジ(1982年)は、レジーム概念はあいまいすぎて一時的な流行にすぎないかもしれず、国家中心的な視点がアメリカのような大国の利益や市場の力を覆い隠していると批判しました。今日、レジーム論は気候変動、インターネット、保健といったグローバル・ガバナンス研究へと引き継がれています。
よくある質問
- 国際レジーム論を簡単に言うと?
- 世界政府がなくても、貿易、環境、核兵器といった分野ごとに国々がともに守る原則とルールの束、すなわちレジームがあるため協力が可能になる、と説明する理論です。
- レジームと国際機関は同じものですか?
- 同じではありません。レジームは原則、規範、ルール、手続きの体系であり、国際機関がなくても存在しえます。国際機関はレジームを運営し監視する組織の役割を果たすことが多いです。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Krasner, S. D. (1982). Structural causes and regime consequences: Regimes as intervening variables. International Organization, 36(2), 185–205. レジームの標準的な定義(原則・規範・ルール・意思決定手続き)を示した論文で、概念を正確に理解するときに参考になります。
- Stein, A. A. (1982). Coordination and collaboration: Regimes in an anarchic world. International Organization, 36(2), 299–324. 調整と協働という二つのゲーム状況からレジームが生まれる理由を説明しており、ゲーム理論的アプローチを見るのに参考になります。
- Young, O. R. (1982). Regime dynamics: The rise and fall of international regimes. International Organization, 36(2), 277–297. レジームが自生的・交渉的・強制的なかたちで生まれ変化するとみた論文で、レジームの形成過程を理解するのに役立ちます。
- Strange, S. (1982). Cave! hic dragones: A critique of regime analysis. International Organization, 36(2), 479–496. レジーム概念はあいまいで大国の利益を覆い隠すという代表的な批判で、理論の弱点を検討するのに参考になります。
- Keohane, R. O. (1984). After Hegemony: Cooperation and Discord in the World Political Economy. Princeton, NJ: Princeton University Press. 覇権が衰えてもレジームが取引費用を下げて協力を維持するという新自由主義的制度論の古典で、機能主義的な説明を理解するのに役立ちます。
- Haggard, S., & Simmons, B. A. (1987). Theories of international regimes. International Organization, 41(3), 491–517. 構造的・ゲーム理論的・機能的・認知的アプローチを比較整理したレビューで、多くの理論を一望するのに参考になります。
- Hasenclever, A., Mayer, P., & Rittberger, V. (1997). Theories of International Regimes. Cambridge: Cambridge University Press. 権力・利益・知識を中心とする三つの学派でレジーム理論を整理した本で、リアリズム・リベラリズム・コンストラクティビズムの観点を比べるのに役立ちます。
