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血縁選択

🔬 自然科学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
血縁選択とは、遺伝子を共有する血縁者を助ける行動が自分の繁殖には損になっても、血縁者を通じて同じ遺伝子がより多く伝われば自然選択で有利になりうるという進化理論です。ハミルトン則rB>Cに要約されます。
目次
  1. 1. 利他性の謎とハミルトン則
  2. 2. 実証的な事例
  3. 3. 論争と意義
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

利他性の謎とハミルトン則

ダーウィン以来、働きバチのように自ら繁殖せずに他の個体を助ける利他行動は、自然選択では説明しにくい謎でした。フィッシャー(1930年)とホールデン(1955年)が手がかりを残しており、ホールデンは「兄弟二人かいとこ八人のためなら命を投げ出す」という冗談で知られます。これを体系化したのがW・D・ハミルトン(1964年)です。彼は個体の適応度を、自分の子だけでなく、行動が血縁者の繁殖に与えた影響を血縁度で重みづけして加えた「包括適応度」として定義しました。そして利他行動はrB>Cのとき選択されるという「ハミルトン則」を示しました。ここでrは行為者と受益者の血縁度(同じ遺伝子を共有する確率で、きょうだいは0.5、いとこは0.125)、Bは受益者が得る繁殖上の利益、Cは行為者が払う繁殖上のコストです。ジョン・メイナード=スミス(1964年)はこれを「血縁選択」と名づけ、リチャード・ドーキンス(1976年)の『利己的な遺伝子』はこの視点を一般に広めました。

実証的な事例

ハミルトンは、ハチ、アリ、スズメバチのような膜翅目昆虫で真社会性が何度も進化した理由を半倍数性の性決定で説明しました。オスが半数体なので、同じ両親をもつ姉妹の働きバチ同士の血縁度は0.75で、自分の娘(0.5)より高く、女王の娘を育てるほうが有利だというものです。トリヴァースとヘア(1976年)は、働きバチが投資の性比をメスの側に偏らせるという予測を支持するデータを示しました。ただしシロアリのように二倍体の真社会性動物もいるため半倍数性だけでは十分ではなく、ヒューズら(2008年)は、真社会性は女王が一匹のオスとだけ交尾する一夫一妻の祖先をもつ系統でのみ進化したことを系統解析で示し、高い血縁度の重要性を明らかにしました。シャーマン(1977年)はベルディングジリスが近くに血縁者がいるときほど捕食者への警戒声を多く発することを、エムレンとレッジ(1988年)はシロビタイハチクイのヘルパーが近い血縁者の巣を優先して手伝うことを示しました。人間についても、デイリーとウィルソン(1988年)は継子が実子より虐待や殺害の危険が高いというデータを血縁選択の観点から解釈しました。

論争と意義

2010年、マーティン・ノワック、コリーナ・タルニタ、エドワード・O・ウィルソンは、包括適応度理論は不要で一般性が限られているとして、標準的な自然選択モデルと集団レベルの説明で真社会性を説明し直すべきだと主張しました。これに対しアボットら137人の研究者(2011年)は、包括適応度理論は数多くの実証研究に支えられ数学的にも一般的だと反論し、論争はいまも続いています。ウェスト、グリフィン、ガードナー(2007年)は、利他性、協力、相利共生、集団選択といった用語の混乱が論争を大きくしていると指摘しました。血縁選択は、非血縁者間の協力を説明する互恵的利他主義、協力の進化研究、進化ゲーム理論とともに、社会行動の進化の中核的な枠組みとして用いられています。

よくある質問

血縁選択をわかりやすく言うと?
家族を助ける行動は、自分の子が減っても、自分と同じ遺伝子をもつ家族がより多く生き残って繁殖すれば、結果的に遺伝子にとって得になりうるという理論です。
ハミルトン則rB>Cとはどういう意味ですか?
助けられる血縁者の利益(B)に血縁度(r)を掛けた値が、助ける側が払うコスト(C)より大きければ、その利他行動は自然選択によって広がりうるという意味です。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Hamilton, W. D. (1964). The genetical evolution of social behaviour. I & II. Journal of Theoretical Biology, 7(1), 1–52.
  2. Maynard Smith, J. (1964). Group selection and kin selection. Nature, 201(4924), 1145–1147.
  3. Haldane, J. B. S. (1955). Population genetics. New Biology, 18, 34–51.
  4. Fisher, R. A. (1930). The Genetical Theory of Natural Selection. Oxford: Clarendon Press.
  5. Trivers, R. L., & Hare, H. (1976). Haploidploidy and the evolution of the social insects. Science, 191(4224), 249–263.
  6. Dawkins, R. (1976). The Selfish Gene. Oxford: Oxford University Press.
  7. Sherman, P. W. (1977). Nepotism and the evolution of alarm calls. Science, 197(4310), 1246–1253.
  8. Emlen, S. T., & Wrege, P. H. (1988). The role of kinship in helping decisions among white-fronted bee-eaters. Behavioral Ecology and Sociobiology, 23(5), 305–315.
  9. Hughes, W. O. H., Oldroyd, B. P., Beekman, M., & Ratnieks, F. L. W. (2008). Ancestral monogamy shows kin selection is key to the evolution of eusociality. Science, 320(5880), 1213–1216.
  10. Nowak, M. A., Tarnita, C. E., & Wilson, E. O. (2010). The evolution of eusociality. Nature, 466(7310), 1057–1062.
  11. Abbot, P., et al. (2011). Inclusive fitness theory and eusociality. Nature, 471(7339), E1–E4.
  12. West, S. A., Griffin, A. S., & Gardner, A. (2007). Social semantics: Altruism, cooperation, mutualism, strong reciprocity and group selection. Journal of Evolutionary Biology, 20(2), 415–432.
  13. Daly, M., & Wilson, M. (1988). Homicide. New York: Aldine de Gruyter.

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この記事は2026年10月26日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。