リッチネスの基準と序列
ダフトとレンゲル(1986年)は、メディアのリッチネスを四つの基準で判断しました。即時のフィードバックが可能か、表情・声・身ぶりといった複数の手がかりを同時に伝えられるか、自然な言葉を使えるか、相手に合わせてメッセージを個人化できるか、です。この基準によれば、対面の会話が最も豊かで、次に電話、個人的な手紙やメモ、公式文書、数値の報告書の順に乏しくなるとされます。豊かなメディアほど、短い時間でお互いの理解を変え、意味をすり合わせていけるというのです。
不確実性、多義性とメディア選択
この理論は、組織が解決すべき情報の問題を二つに分けます。「不確実性」は必要な情報が不足している状態で、より多くのデータを集めれば解決します。「多義性」は同じ情報に複数の解釈が可能な状態で、データを集めるより対話を通じて意味をすり合わせることで解決します。したがって、多義的な問題には豊かなメディアが、単純な問題には乏しいが効率的なメディアが適しています。ダフトら(1987年)は、メッセージの多義性に合わせてメディアを選ぶ管理者が実際により高い評価を受けていたと報告しました。これは人が見知らぬ相手についての不確実性を減らす過程ともつながっています。
反論と後続の理論
電子メールやメッセンジャーが広く使われるにつれ、理論の予測があまり当てはまらないという結果が出てきました。デニスとキニー(1998年)の実験では、メディアのリッチネスは期待されたほど課題の成果に影響しませんでした。ウォルサー(1996年)は、手がかりの少ないコンピュータを介したコミュニケーションでも、時間が十分にあれば対面に劣らない、ときにはそれ以上に親密な関係を築けると主張しました。カールソンとズムッド(1999年)は利用者がメディアや相手に慣れるほど同じメディアもより豊かに感じられるという「チャネル拡張理論」を、コック(2005年)は対面コミュニケーションとどれほど似ているかを重視する「メディア自然性理論」を、デニスら(2008年)はコミュニケーションの過程に合った同期性を重視する「メディア同期性理論」を提示しました。
よくある質問
- メディア・リッチネス理論を簡単に言うと?
- 複雑で誤解が生まれやすい話は顔を合わせて話すのがよく、簡単な連絡は電子メールや文書で十分だという理論です。メディアごとに伝えられる情報の豊かさが異なるためです。
- 不確実性と多義性はどう違いますか?
- 不確実性は情報が足りない状態なのでデータを集めれば解決し、多義性は同じ情報をいくつもの仕方で解釈できる状態なので対話によって意味をすり合わせる必要があります。この理論は、多義性が大きいほど豊かなメディアが必要だと考えます。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Daft, R. L., & Lengel, R. H. (1984). Information richness: A new approach to managerial behavior and organization design. Research in Organizational Behavior, 6, 191–233. 情報リッチネスの概念を初めて示した論文で、理論が組織研究でどのように始まったかを見るのに参考になります。
- Daft, R. L., & Lengel, R. H. (1986). Organizational information requirements, media richness and structural design. Management Science, 32(5), 554–571. 不確実性と多義性を区別し、メディア・リッチネスの序列を整理した中核的な論文で、理論の骨格を理解するのに役立ちます。
- Daft, R. L., Lengel, R. H., & Trevino, L. K. (1987). Message equivocality, media selection, and manager performance: Implications for information systems. MIS Quarterly, 11(3), 355–366. 多義的なメッセージに豊かなメディアを選ぶ管理者ほど成果が高いという研究で、メディア選択の実際を見るのに参考になります。
- Walther, J. B. (1996). Computer-mediated communication: Impersonal, interpersonal, and hyperpersonal interaction. Communication Research, 23(1), 3–43. 乏しいメディアでも時間がたてば親密な関係が生まれるという反論で、理論の限界を見るのに役立ちます。
- Dennis, A. R., & Kinney, S. T. (1998). Testing media richness theory in the new media: The effects of cues, feedback, and task equivocality. Information Systems Research, 9(3), 256–274. 新しいメディアでは理論の予測があまり当てはまらないことを示した実験で、実証的根拠を確かめるのに参考になります。
- Carlson, J. R., & Zmud, R. W. (1999). Channel expansion theory and the experiential nature of media richness perceptions. Academy of Management Journal, 42(2), 153–170. 使用経験が積み重なると同じメディアもより豊かに感じられるというチャネル拡張理論で、リッチネスが固定されないことを見るのに役立ちます。
- Kock, N. (2005). Media richness or media naturalness? The evolution of our biological communication apparatus and its influence on our behavior toward e-communication tools. IEEE Transactions on Professional Communication, 48(2), 117–130. 進化的な視点から対面コミュニケーションとの類似性を強調した代替理論で、後続の理論を比較するのに参考になります。
- Dennis, A. R., Fuller, R. M., & Valacich, J. S. (2008). Media, tasks, and communication processes: A theory of media synchronicity. MIS Quarterly, 32(3), 575–600. 情報の伝達と意味の収束という過程に合ったメディアを選ぶというメディア同期性理論で、リッチネス理論の代替を見るのに役立ちます。
