ゴルジとカハールの論争
1873年、イタリアのカミッロ・ゴルジは硝酸銀で神経組織の一部の細胞だけを黒く染める「黒い反応」を開発しました。ゴルジは神経系が一続きの網だと考えましたが、スペインのサンティアゴ・ラモン・イ・カハールは同じ染色法で何千枚もの図を描き、神経系は互いに離れた個々の細胞からなると主張しました。1891年にヴィルヘルム・ヴァルダイアーがこの細胞を「ニューロン」と呼んで「ニューロン説」をまとめ、1906年、ゴルジとカハールは対立したままノーベル賞を共に受けました。1897年にはチャールズ・シェリントンがニューロン間のすき間を「シナプス」と名づけ、1950年代に電子顕微鏡がそのすき間(約20nm)を直接示してカハールの正しさが確かめられました。
構造と信号
ニューロンは信号を受け取る樹状突起、核のある細胞体、信号を遠くへ送る軸索からなります。入ってきた信号がしきい値を超えるとナトリウムイオンが流れ込み、約1000分の1秒の電気パルス、すなわち活動電位が軸索を伝わります。1952年、アラン・ホジキンとアンドリュー・ハクスリーはヤリイカの巨大軸索を使ってこの過程を数式で説明し、1963年にノーベル賞を受けました。ミエリンという絶縁の膜に包まれた軸索では、信号がくびれを跳び越えるように進み秒速100mを超えます。軸索の末端ではアセチルコリンやドーパミンなどの神経伝達物質がシナプスに放出され、次のニューロンに信号を渡します。1つのニューロンは数千のシナプスを持ち、よく使われる結合は強まります。これが神経可塑性や学習、記憶の土台です。
数、種類、そして人工ニューロン
2009年、スザーナ・エルクラーノ=ウーゼルらは脳を溶かして細胞核を数える方法で、ヒトの脳には約860億個のニューロンがあると推定しました。長く言われてきた「1000億個」「グリア細胞はその10倍」という数字には根拠が乏しかったのです。1962年、ヒューベルとウィーゼルはネコの視覚野のニューロンが特定の傾きの線にだけ反応することを発見しました。サルで見つかったミラーニューロンのように、独特な働きをするニューロンもあります。成人の脳では新しいニューロンが生まれないという通説は、1998年にエリクソンらが海馬での神経新生を報告して揺らぎましたが、その規模はいまも議論中です。1943年にマカロックとピッツがニューロンを単純な論理素子とみなしたモデルは、今日の人工ニューラルネットワークやディープラーニングの出発点になりました。ニューロンが一斉に異常に興奮するとてんかん発作が起こります。
よくある質問
- ニューロンは再生しないのですか?
- ほとんどのニューロンは一生作り直されませんが、海馬など一部の部位では成人でも新しいニューロンが生まれるという研究があります。ヒトでの量はまだ議論があります。
- 人は脳の10%しか使っていないって本当?
- いいえ。脳画像の研究では、1日のうちに事実上すべての領域が活動しており、小さな損傷でも機能障害が起こります。「10%神話」に根拠はありません。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
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- Ramón y Cajal, S. (1899–1904). Textura del sistema nervioso del hombre y de los vertebrados. Madrid: Nicolás Moya.
- Sherrington, C. S. (1906). The Integrative Action of the Nervous System. New Haven: Yale University Press.
- McCulloch, W. S., & Pitts, W. (1943). A logical calculus of the ideas immanent in nervous activity. Bulletin of Mathematical Biophysics, 5(4), 115–133.
- Hodgkin, A. L., & Huxley, A. F. (1952). A quantitative description of membrane current and its application to conduction and excitation in nerve. Journal of Physiology, 117(4), 500–544.
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- Kandel, E. R., Koester, J. D., Mack, S. H., & Siegelbaum, S. A. (Eds.). (2021). Principles of Neural Science (6th ed.). New York: McGraw-Hill.
