離れているのか、つながっているのか
19世紀末、カミッロ・ゴルジは神経系がひとつながりの網だと考えましたが、1888年ごろからサンティアゴ・ラモン・イ・カハールはゴルジの銀染色法で鳥の脳を観察し、ニューロンは独立した細胞で互いに接しているだけだという「ニューロン説」を唱えました。二人は1906年にノーベル賞を共に受けながら、受賞講演で互いに反論しました。1897年、イギリスのチャールズ・シェリントンはこの接点をギリシャ語で「結び合わせる」を意味する「シナプス」と呼び、1906年の『神経系の統合作用』で反射がシナプスの興奮と抑制で調節されることを示しました。1950年代に電子顕微鏡が約20ナノメートルの「シナプス間隙」を実際に映し出し、カハールが正しかったことが確かめられました。
電気か、化学か
1921年、オットー・レーヴィは夢で思いついたという実験で、迷走神経を刺激したカエルの心臓の液を別の心臓に移すと、その心臓も遅くなることを示しました。この「迷走神経物質」こそアセチルコリンで、信号が化学物質で伝わる最初の証拠でした。ジョン・エクルスははじめ電気伝達説を支持しましたが、自らの実験で化学伝達を受け入れました。1952年、バーナード・カッツとポール・ファットは神経伝達物質が一定の「包み(量子)」単位で放出されることを発見し、これはシナプス小胞という小さな袋で説明されました。電気信号が軸索の末端に届くとカルシウムが流れ込み、小胞が細胞膜と融合して伝達物質が間隙に放たれ、次の細胞の受容体に結合します。トーマス・スードフはこれを1000分の1秒以内に行う分子の仕組みを解明し、2013年にノーベル賞を受けました。ドーパミン、セロトニン、グルタミン酸、GABAなどが代表的な伝達物質で、心筋のようにイオンが直接通る電気シナプスもあります。
学習、記憶、そして刈り込み
1949年、ドナルド・ヘッブは「一緒に発火するニューロンは結びつく」という考えで、学習とはシナプスの強さの変化だと提案しました。1973年、ティム・ブリスとテリエ・レモは、ウサギの海馬に短い高頻度刺激を与えるとシナプス伝達が数時間以上強まる「長期増強」を発見してこれを裏づけました。このようにシナプスが使われ方に応じて強まったり弱まったりする性質が神経可塑性の核心です。赤ちゃんの脳はシナプスを過剰につくり、思春期までにあまり使われないものを減らす「刈り込み」を行います。2016年の研究は、免疫たんぱく質C4の遺伝子の違いが過剰な刈り込みや統合失調症のリスクに関わる可能性を示しましたが、原因と断定できる段階ではありません。多くの抗うつ薬や麻酔薬、ニコチンやカフェインなどもシナプスに作用します。
よくある質問
- シナプスは年をとると減る一方なの?
- シナプスは一生を通じて新しくでき、なくなります。老化で一部減ることはありますが、学び・運動・人との交流が新しいつながりづくりに役立つと考えられています。
- ホルモンとシナプスの伝達はどう違う?
- シナプス伝達は数十ナノメートルの距離をミリ秒で渡る「近距離通信」で、ホルモンは血液にのって全身に広がる、ゆっくりで広い信号です。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Ramón y Cajal, S. (1888). Estructura de los centros nerviosos de las aves. Revista Trimestral de Histología Normal y Patológica, 1, 1–10.
- Sherrington, C. S. (1906). The Integrative Action of the Nervous System. New Haven: Yale University Press.
- Loewi, O. (1921). Über humorale Übertragbarkeit der Herznervenwirkung. Pflügers Archiv für die gesamte Physiologie, 189, 239–242.
- Hebb, D. O. (1949). The Organization of Behavior: A Neuropsychological Theory. New York: Wiley.
- Fatt, P., & Katz, B. (1952). Spontaneous subthreshold activity at motor nerve endings. Journal of Physiology, 117(1), 109–128.
- De Robertis, E. D. P., & Bennett, H. S. (1955). Some features of the submicroscopic morphology of synapses in frog and earthworm. Journal of Biophysical and Biochemical Cytology, 1(1), 47–58.
- Eccles, J. C. (1957). The Physiology of Nerve Cells. Baltimore: Johns Hopkins Press.
- Bliss, T. V. P., & Lømo, T. (1973). Long-lasting potentiation of synaptic transmission in the dentate area of the anaesthetized rabbit following stimulation of the perforant path. Journal of Physiology, 232(2), 331–356.
- Südhof, T. C. (2013). Neurotransmitter release: The last millisecond in the life of a synaptic vesicle. Neuron, 80(3), 675–690.
- Sekar, A., et al. (2016). Schizophrenia risk from complex variation of complement component 4. Nature, 530(7589), 177–183.
