歴史
1906年、英国のヘンリー・デールは下垂体の抽出物がネコの子宮を収縮させることを発見し、この物質はギリシャ語の「速い出産」にちなんでオキシトシンと名づけられました。1953年、米国のヴィンセント・デュ・ヴィニョーは9個のアミノ酸からなる構造を解明して初めて合成し、ペプチドホルモン合成の最初の例として1955年にノーベル化学賞を受けました。合成オキシトシンは今も陣痛促進や産後出血の治療に欠かせない薬です。
体と心での働き
赤ちゃんが乳首を吸うとオキシトシンが出て母乳を押し出す射乳反射が起こり、分娩中は子宮収縮を強めます。1990年代、スー・カーターとトーマス・インセルは一夫一婦制のプレーリーハタネズミにオキシトシン受容体が多いことを示し、つがいの絆や愛着の研究を切り開きました。2005年にはスイスの研究チームが、鼻から吸入したオキシトシンで投資ゲームの相手をより信頼するようになると『ネイチャー』に発表し、「信頼ホルモン」という呼び名が広まりました。ハグやスキンシップがオキシトシンとドーパミンの報酬系を刺激し、絆を強めるという説明もあります。
誇張と限界
しかし2010年代には、点鼻スプレー研究の多くがサンプルが小さく再現できないと批判され、信頼実験も追試では同じ結果が出にくいことがわかりました。身内への親しみを高める一方で、よそ者への警戒も強めるという結果もあり、単純な「愛情ホルモン」ではありません。自閉スペクトラム症への効果も期待されましたが、2021年の大規模試験では確認されませんでした。オキシトシンの低さと産後うつの関連が研究されているほか、ストレスホルモンのコルチゾールを下げる作用も報告されています。
この記事は一般的な健康情報であり、診断や治療に代わるものではありません。症状が続く場合は医師に相談してください。
よくある質問
- オキシトシンを増やす方法はありますか?
- ハグ、マッサージ、親しい会話、一緒に笑う時間など、ふれあいや人とのつながりが分泌を促すとされています。
- オキシトシンスプレーを使えば人を信頼できるようになりますか?
- その効果は再現性が低く、市販品の品質も保証されていないため勧められません。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- du Vigneaud, V., et al. (1953). The synthesis of an octapeptide amide with the hormonal activity of oxytocin. Journal of the American Chemical Society, 75(19), 4879–4880.
- Kosfeld, M., Heinrichs, M., Zak, P. J., Fischbacher, U., & Fehr, E. (2005). Oxytocin increases trust in humans. Nature, 435, 673–676.
- Walum, H., Waldman, I. D., & Young, L. J. (2016). Statistical and methodological considerations for the interpretation of intranasal oxytocin studies. Biological Psychiatry, 79(3), 251–257.
