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合理的無知

📈 経済学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
合理的無知とは、情報を得るのにかかる時間や労力が、その情報から得られる期待利益より大きいとき、人々があえて情報を探さず知らないままでいることが合理的だという概念です。1957年にアンソニー・ダウンズが『民主主義の経済理論』で示しました。一票が選挙結果を変える確率はきわめて小さいため、有権者が政策を深く学ばないのは怠惰ではなく合理的な選択でありうるというのです。公共選択論や政治行動研究で重要な概念として使われています。
目次
  1. 1. ダウンズの論理
  2. 2. 情報の近道
  3. 3. 情報効果と民主主義の論争
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

ダウンズの論理

ダウンズ(1957年)は有権者を費用と便益を比べる合理的な行為者とみなしました。候補者の政策を丁寧に比べるには新聞を読み資料を探す時間と労力がかかりますが、数百万人が投票する選挙で自分の一票が結果を変える確率はほとんどゼロです。そのため、情報を多く集めてより良い選択をしても個人が得る期待利益はきわめて小さく、情報を得ないほうが合理的だというのです。この論理は投票そのものにも当てはまり、なぜ人はわざわざ投票するのかという「投票のパラドックス」につながります。これは合理的選択理論を政治に応用した代表的な例です。

情報の近道

とはいえ、有権者がでたらめに投票しているわけではないという反論もあります。ポプキン(1991年)は、有権者が政党、支持団体、候補者のイメージといった手がかりを「情報の近道」として使い、少ない情報でもそれなりに合理的な判断を下していると考え、これを「低情報合理性」と呼びました。ルピア(1994年)は、カリフォルニアの保険改革の住民投票で、保険業界がどちらを支持しているかだけを知っていた有権者が、政策を詳しく知る有権者と似た投票をしたという結果を報告しました。ただし、近道がいつもうまく機能するわけではありません。

情報効果と民主主義の論争

バーテルズ(1996年)はアメリカ大統領選挙のデータを分析し、すべての有権者が十分な情報をもっていれば結果が変わりうるほど、情報不足が投票を体系的に変えるという「情報効果」を報告しました。ソミン(1998年)は、有権者の無知が政府を統制する市民という民主主義の理想に深刻な問題を投げかけると主張しました。カプラン(2007年)はさらに一歩進み、誤った信念を正すことによる利益も個人にはほとんどないため、人々は感情的に心地よい誤った経済的信念をそのまま保つという「合理的非合理性」を提示しました。これらの概念は集合行為のジレンマやレントシーキングの説明にも使われます。

よくある質問

合理的無知を簡単に言うと?
ある情報を調べる手間が、それを知って得られる利益より大きければ、知らないままでいるほうがむしろ合理的だという意味です。自分の一票が選挙を変える可能性は小さいので政策の勉強を控える、というのが代表的な例です。
合理的無知と合理的非合理性はどう違いますか?
合理的無知は情報をそもそも得ないことで、合理的非合理性は情報があっても誤った信念を正す利益が個人にはほとんどないため、感情的に心地よい誤った信念を保ち続けることを指します。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Downs, A. (1957). An Economic Theory of Democracy. New York: Harper & Row. 合理的無知の概念が初めて体系的に登場した原典で、この概念の出発点を知りたいときに参考になります。
  2. Downs, A. (1957). An economic theory of political action in a democracy. Journal of Political Economy, 65(2), 135–150. ダウンズの理論の核心を凝縮した論文で、情報コストと投票の論理を手短に整理するのに役立ちます。
  3. Popkin, S. L. (1991). The Reasoning Voter: Communication and Persuasion in Presidential Campaigns. Chicago: University of Chicago Press. 有権者が情報の近道で「低情報合理性」を発揮するとした本で、無知の帰結を楽観的にみる視点を知るのに参考になります。
  4. Lupia, A. (1994). Shortcuts versus encyclopedias: Information and voting behavior in California insurance reform elections. American Political Science Review, 88(1), 63–76. 手がかりだけでも情報の多い有権者のように投票できることを示した研究で、情報の近道の効果を確かめるのに役立ちます。
  5. Bartels, L. M. (1996). Uninformed votes: Information effects in presidential elections. American Journal of Political Science, 40(1), 194–230. 情報不足が実際の選挙結果を体系的に変えるという分析で、近道の限界を見るのに参考になります。
  6. Somin, I. (1998). Voter ignorance and the democratic ideal. Critical Review, 12(4), 413–458. 有権者の無知が民主主義理論に投げかける問題を扱った論文で、規範的な論争を理解するのに役立ちます。
  7. Caplan, B. (2007). The Myth of the Rational Voter: Why Democracies Choose Bad Policies. Princeton, NJ: Princeton University Press. 無知を超えて体系的な偏りである「合理的非合理性」を主張した本で、理論の拡張と論争を見るのに参考になります。

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この記事は2026年10月27日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。