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投票のパラドックス

🏛️ 政治・行政学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
投票のパラドックスとは、合理的選択理論の観点からは1人の票が選挙結果を決める確率がほぼゼロで、投票のコストが期待利益を上回るため合理的な有権者は棄権するはずなのに、実際には非常に多くの人が投票するという矛盾を指します。アンソニー・ダウンズが1957年の『民主主義の経済理論』で体系化し、合理的選択アプローチの代表的な試金石とされています。社会選択理論のコンドルセのパラドックスとは別の概念です。
目次
  1. 1. ダウンズの計算とパラドックスの登場
  2. 2. 理論的な説明
  3. 3. 利他的投票と実証的な証拠
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

ダウンズの計算とパラドックスの登場

ダウンズ(1957年)は、有権者が投票の期待利益とコストを比較すると考えました。期待利益は、支持する候補が勝ったときの利益に、自分の1票が結果を変える確率を掛けたものですが、何百万人もが参加する選挙ではこの確率はきわめて小さくなります。一方で、投票所に行く時間や情報収集のコストは確実に発生するため、計算上、合理的な有権者は棄権すべきことになります。タロック(1967年)も同じ論理を強調しました。これは公共財への貢献におけるフリーライダー問題と同じ構造をもち、高い投票率という現実を説明できない点で、合理的選択理論の弱点として指摘されてきました。グリーンとシャピロ(1994年)は、これを合理的選択アプローチの代表的な病理として批判しています。

理論的な説明

ライカーとオードシュック(1968年)は、投票の計算式に、市民としての義務感や民主主義を支持する満足感を表すD項を加え、投票という行為そのものから得られる効用によって参加を説明しました。ただし、これは結論を前提に組み込んでいるという批判を受けました。フェレジョンとフィオリーナ(1974年)は、確率を見積もれない有権者が最大の後悔を最小化しようとするなら投票しうるという、ミニマックス後悔の基準を提示しました。レッドヤード(1984年)やパルフリーとローゼンタール(1985年)は、他者の参加を考慮するゲーム理論モデルを構築しました。全員が棄権すれば1票の影響力が大きくなるので、ある程度の参加が均衡になりますが、コストがある場合、大規模選挙の均衡投票率はやはり低くなります。フェダーセン(2004年)は、集団単位のルールに基づく行動という観点からこの議論を整理しています。

利他的投票と実証的な証拠

エドリン、ゲルマン、カプラン(2007年)は、有権者が自分の利益だけでなく社会全体の厚生を考慮するなら、決定的な1票となる確率が小さくても、かかっている利益が有権者の数に比例して大きくなるため、投票は合理的でありうると主張しました。ゲルマン、シルバー、エドリン(2012年)は、2008年のアメリカ大統領選挙で1票が結果を変える確率は平均でおよそ6000万分の1でしたが、接戦州ではそれよりはるかに高かったと推定しています。ブレ(2000年)はカナダの有権者調査から義務感が投票参加の中心的な動機であることを示し、ガーバー、グリーン、ラリマー(2008年)の大規模なフィールド実験では、投票したかどうかが近所に公開されると伝える手紙によって投票率が約8ポイント上がりました。これは社会規範が投票の重要な原動力であることを示しています。ミューラー(2003年)は、この論争を公共選択論の中心的なテーマとして整理しています。

よくある質問

投票のパラドックスを簡単に言うと?
自分の1票が選挙結果を変える可能性はほとんどないので、時間と手間をかけて投票するのは計算上は割に合わないのに、実際には多くの人が投票する、という謎です。
コンドルセのパラドックスと同じものですか?
いいえ。コンドルセのパラドックスは多数決で集団の選好を集計すると循環が生じうるという社会選択理論の問題で、投票のパラドックスは人々がなぜ投票に参加するのかという問題です。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Downs, A. (1957). An Economic Theory of Democracy. New York: Harper & Row.
  2. Tullock, G. (1967). Toward a Mathematics of Politics. Ann Arbor: University of Michigan Press.
  3. Riker, W. H., & Ordeshook, P. C. (1968). A theory of the calculus of voting. American Political Science Review, 62(1), 25–42.
  4. Ferejohn, J. A., & Fiorina, M. P. (1974). The paradox of not voting: A decision theoretic analysis. American Political Science Review, 68(2), 525–536.
  5. Ledyard, J. O. (1984). The pure theory of large two-candidate elections. Public Choice, 44(1), 7–41.
  6. Palfrey, T. R., & Rosenthal, H. (1985). Voter participation and strategic uncertainty. American Political Science Review, 79(1), 62–78.
  7. Green, D. P., & Shapiro, I. (1994). Pathologies of Rational Choice Theory. New Haven: Yale University Press.
  8. Gelman, A., Silver, N., & Edlin, A. (2012). What is the probability your vote will make a difference? Economic Inquiry, 50(2), 321–326.
  9. Edlin, A., Gelman, A., & Kaplan, N. (2007). Voting as a rational choice: Why and how people vote to improve the well-being of others. Rationality and Society, 19(3), 293–314.
  10. Feddersen, T. J. (2004). Rational choice theory and the paradox of not voting. Journal of Economic Perspectives, 18(1), 99–112.
  11. Gerber, A. S., Green, D. P., & Larimer, C. W. (2008). Social pressure and voter turnout: Evidence from a large-scale field experiment. American Political Science Review, 102(1), 33–48.
  12. Blais, A. (2000). To Vote or Not to Vote? The Merits and Limits of Rational Choice Theory. Pittsburgh: University of Pittsburgh Press.
  13. Mueller, D. C. (2003). Public Choice III. Cambridge: Cambridge University Press.

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この記事は2026年10月27日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。