ゲームの構造と均衡
ディークマン(1985年)のモデルでは、n人のプレイヤーがそれぞれコストKを払って「名乗り出る」かどうかを決め、1人でも名乗り出れば全員が利益Uを得て、誰も名乗り出なければ全員が0となります。1人だけが名乗り出て残りがただ乗りする非対称な均衡はn個ありますが、誰が名乗り出るべきかを決める仕組みがないため、対称的な混合戦略均衡が分析の中心となります。この均衡で個人が名乗り出ない確率は(K/U)^(1/(n−1))であり、集団が大きくなるほど各自が名乗り出る確率は下がり、誰も名乗り出ない確率はむしろ上がります。これはオルソン(1965年)が論じた大集団におけるフリーライダー問題を鮮やかに示しています。ブリスとネイルバフ(1984年)も「ドラゴン退治」のたとえで、同じ構造をもつ公共財の私的供給の問題を分析しました。
傍観者効果と責任の分散
このモデルは、ダーリーとラタネ(1968年)が明らかにした傍観者効果にゲーム理論的な説明を与えます。彼らの実験では、緊急事態を目撃する人が多いほど、個人が援助に乗り出す割合も速さも低下し、ラタネとニダ(1981年)はこれを責任の分散として整理しました。フィッシャーら(2011年)のメタ分析は、危険が明白な緊急事態では傍観者効果が弱まると報告しています。ウィージー(1993年)は、プレイヤー間のコストの違いや行動のタイミングを考慮すると、コストの最も小さい人が先に名乗り出る均衡が現れることを分析し、ディークマン(1993年)の非対称版の実験もこれを裏づけました。
実験による証拠と応用
マーニガン、キム、メッツガー(1993年)とフランツェン(1995年)の実験では、集団が大きくなるほど個人が名乗り出る割合は下がったものの、理論の予測よりは高い水準を保ちました。ゴーリー、ホルト、スミス(2017年)は、個人の名乗り出る確率が集団規模に応じて低下するパターンを確認しつつ、誰も名乗り出ない確率は理論ほど大きくは増えないと報告しています。大坪とラポポート(2008年)は時間の経過とともに選択する動学版を実験しましたが、これは消耗戦ゲームに似た待ち合いの構造です。アルケッティ(2009年)は、微生物や動物の集団における協力行動にもこの構造を当てはめ、最適な集団規模を論じました。
よくある質問
- ボランティアのジレンマを簡単に言うと?
- 誰か1人が名乗り出れば全員が助かるのに、皆がほかの人がやってくれるのを待つうちに、結局誰も名乗り出ないかもしれない状況です。
- なぜ人が多いほど誰も動かなくなるのですか?
- 人が多いと「誰かがやるだろう」と考えて、各自が動く確率が下がります。ゲーム理論で計算するとこの効果が大きく、全体として誰も動かない確率がかえって高まることがあります。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Diekmann, A. (1985). Volunteer's dilemma. Journal of Conflict Resolution, 29(4), 605–610.
- Diekmann, A. (1993). Cooperation in an asymmetric volunteer's dilemma game: Theory and experimental evidence. International Journal of Game Theory, 22(1), 75–85.
- Darley, J. M., & Latané, B. (1968). Bystander intervention in emergencies: Diffusion of responsibility. Journal of Personality and Social Psychology, 8(4), 377–383.
- Latané, B., & Nida, S. (1981). Ten years of research on group size and helping. Psychological Bulletin, 89(2), 308–324.
- Olson, M. (1965). The Logic of Collective Action. Cambridge, MA: Harvard University Press.
- Bliss, C., & Nalebuff, B. (1984). Dragon-slaying and ballroom dancing: The private supply of a public good. Journal of Public Economics, 25(1–2), 1–12.
- Murnighan, J. K., Kim, J. W., & Metzger, A. R. (1993). The volunteer dilemma. Administrative Science Quarterly, 38(4), 515–538.
- Franzen, A. (1995). Group size and one-shot collective action. Rationality and Society, 7(2), 183–200.
- Weesie, J. (1993). Asymmetry and timing in the volunteer's dilemma. Journal of Conflict Resolution, 37(3), 569–590.
- Otsubo, H., & Rapoport, A. (2008). Dynamic volunteer's dilemmas over a finite horizon: An experimental study. Journal of Conflict Resolution, 52(6), 961–984.
- Goeree, J. K., Holt, C. A., & Smith, A. M. (2017). An experimental examination of the volunteer's dilemma. Games and Economic Behavior, 102, 303–315.
- Fischer, P., Krueger, J. I., Greitemeyer, T., et al. (2011). The bystander-effect: A meta-analytic review on bystander intervention in dangerous and non-dangerous emergencies. Psychological Bulletin, 137(4), 517–537.
- Archetti, M. (2009). The volunteer's dilemma and the optimal size of a social group. Journal of Theoretical Biology, 261(3), 475–480.
