理論の核心
現実的葛藤理論によれば、集団間の目標が衝突し、一方が得をすれば他方が損をする状況になると、敵意や偏見が生まれます。反対に、目標が互いに依存していて協力しなければ達成できない場合には、友好的な関係が生まれます。キャンベル(1965年)はこれを「現実的集団葛藤理論」と呼び、現実の利害の衝突が脅威の認識を生み、脅威の認識が内集団の結束と外集団への敵意を強めるという仮説群として整理しました。この理論は、偏見を個人の性格の問題や欲求不満のはけ口とみていた当時の説明とは異なり、集団間の客観的な関係を重視しました。
ロバーズ・ケーブ実験と上位目標
シェリフら(1961年)は1954年、アメリカ・オクラホマ州のロバーズ・ケーブ州立公園のキャンプで、11〜12歳の少年22人を二つの集団に分けて実験しました。最初は各集団が別々に過ごして名前や規範をつくり、その後、綱引きや野球のように勝った側だけが賞品をもらえる競争活動を行うと、互いに悪口を言い、旗を燃やし、宿舎を襲撃するなど敵意が高まりました。一緒に食事をしたり映画を見たりする単なる接触だけでは対立は減りませんでした。しかし、壊れた給水設備を直したり、ぬかるみにはまったトラックを一緒に引き出したりするように、二つの集団が力を合わせなければ達成できない「上位目標」を与えると、敵意は大きく減りました(Sherif, 1958)。この結果は、その後の接触仮説の研究にも影響を与えました。
拡張と批判
ボボ(1983年)は、アメリカの白人による人種統合のためのバス通学への反対が、象徴的レイシズムよりも集団の現実的な利害と関係していると主張し、エッセス、ジャクソン、アームストロング(1998年)は、資源をめぐる競争の認識が移民への否定的な態度を高めると報告しました。リーク、マニア、ガートナー(2006年)は、現実的脅威や象徴的脅威などの集団間の脅威の認識が外集団への態度と関係しているというメタ分析の結果を発表しました。しかし社会的アイデンティティ理論は、資源の競争がなくても集団に分けられるだけで内集団びいきが生じることを示し、現実的葛藤理論だけでは偏見をすべて説明できないと指摘しました。ブルーワー(1999年)は、内集団への愛着と外集団への敵意は別の現象であり、競争や脅威があるときに愛着が敵意に変わりうると考えました。
よくある質問
- 現実的葛藤理論を簡単に言うと?
- 集団が仕事やお金のような限られた資源をめぐって争うとき、互いを嫌い偏見をもつようになる、という理論です。反対に、力を合わせなければ達成できない目標ができると対立は減ります。
- ロバーズ・ケーブ実験とはどんな実験ですか?
- 1954年の少年キャンプで子どもたちを二つの集団に分けて競争させると敵意が高まり、二つの集団が協力しなければ解決できない課題を与えると対立が減った実験です。現実的葛藤理論の代表的な根拠とされています。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
- Sherif, M. (1958). Superordinate goals in the reduction of intergroup conflict. American Journal of Sociology, 63(4), 349–356. 共通の上位目標が集団間の対立を減らすという中核的な考えを示した論文で、対立の解消方法を知りたいときに参考になります。
- Sherif, M., Harvey, O. J., White, B. J., Hood, W. R., & Sherif, C. W. (1961). Intergroup Conflict and Cooperation: The Robbers Cave Experiment. Norman, OK: University of Oklahoma Book Exchange. ロバーズ・ケーブ実験の全体報告で、実験がどのような段階で進められたかを詳しく知りたいときに参考になります。
- Campbell, D. T. (1965). Ethnocentric and other altruistic motives. In D. Levine (Ed.), Nebraska Symposium on Motivation (Vol. 13, pp. 283–311). Lincoln: University of Nebraska Press. 「現実的葛藤理論」という名前をつけ関連する仮説を整理した文章で、理論の名称と体系化の過程を知るのに役立ちます。
- Bobo, L. (1983). Whites' opposition to busing: Symbolic racism or realistic group conflict? Journal of Personality and Social Psychology, 45(6), 1196–1210. 人種統合のためのバス通学政策への反対を現実的な利害関係で説明した研究で、理論を実際の政治的態度に適用した例として参考になります。
- Esses, V. M., Jackson, L. M., & Armstrong, T. L. (1998). Intergroup competition and attitudes toward immigrants and immigration: An instrumental model of group conflict. Journal of Social Issues, 54(4), 699–724. 資源をめぐる競争の認識が移民への態度に影響するという研究で、移民問題と結びつけて理解するのに役立ちます。
- Brewer, M. B. (1999). The psychology of prejudice: Ingroup love and outgroup hate? Journal of Social Issues, 55(3), 429–444. 内集団への愛着と外集団への敵意は別物だという議論で、対立がいつ敵意に変わるかを考えるのに参考になります。
- Riek, B. M., Mania, E. W., & Gaertner, S. L. (2006). Intergroup threat and outgroup attitudes: A meta-analytic review. Personality and Social Psychology Review, 10(4), 336–353. 現実的脅威や象徴的脅威などが外集団への態度に与える影響をメタ分析しており、効果の大きさを確かめるのに役立ちます。
