相対的剥奪とは
相対的剥奪(relative deprivation)とは、自分が持っているものを比較の基準(準拠集団)と比べたとき、本来得られるはずの分を得ていないと感じることから生じる不満や憤りです。日本では「相対的剥奪感」とも言います。ポイントは「どれだけ持っているか」ではなく「だれと比べるか」です。生活に必要なものが欠けている絶対的剥奪とは異なり、暮らしがよくなっても比較の相手がもっと速く豊かになれば、剥奪感はむしろ強まることがあります。
- 意味
- 比較の基準より不当に少ないと感じる状態
- 概念化
- ストウファーら『アメリカ兵』(1949)
- 区分
- 個人的剥奪と集団的剥奪(ランシマン、1966)
- 関連概念
- 社会的比較、準拠集団、分配的公正
ストウファーの兵士研究
第二次世界大戦中、アメリカの社会学者サミュエル・ストウファーらは兵士の意識を大規模に調査し、1949年に『アメリカ兵(The American Soldier)』として刊行しました。
昇進の早い部隊の兵士ほど不満が大きかったとしたら、意外に思いませんか。昇進がまれな憲兵隊の兵士は昇進の機会に比較的満足していましたが、昇進の早い航空隊の兵士はかえって昇進制度への不満が大きかったのです。周りの仲間が次々と昇進するのを見ている航空隊の兵士には、「自分だけ取り残された」という感覚が強かったと考えられます。
研究者たちはこれを説明するために「相対的剥奪」という言葉を使い、のちにロバート・マートンが準拠集団論へと発展させました。
個人的剥奪と集団的剥奪
イギリスの社会学者W・G・ランシマン(1966)は、剥奪感を2種類に分けました。
| 項目 | 個人的剥奪 | 集団的剥奪 |
|---|---|---|
| 比較の相手 | 自分と他の個人 | 自分の集団と他の集団 |
| 典型的な感情 | 「自分だけ損をしている」 | 「自分たちの世代(地域、階層)が不当に扱われている」 |
| 結びつきやすい結果 | ストレス、抑うつ、逸脱 | 集合行動、社会運動、政治的態度 |
研究が示した条件
スミスら(2012)は210件の研究(回答者約18万6千人)をメタ分析しました。その結果、「他人より少ない」という認知だけでは効果は弱く、怒りや憤りといった不公正の感情を伴うときに、態度や行動をよりよく予測しました。また、個人的剥奪は健康や逸脱など個人レベルの結果と、集団的剥奪は集合行動とより強く結びついていました。
日常のなかの相対的剥奪
- SNSでの比較:他人のいちばん良い瞬間ばかりが目に入る環境は、上方比較を増やします。社会的比較理論も参考にしてください。
- 資産の格差:同じ収入でも、周りで住宅価格や投資の利益が大きく伸びると剥奪感を抱きやすくなります。
- 向き合い方:比較の基準を自分の過去や目標に置き換え、情報への接し方を調整し、構造的な不公正は個人の問題だけにせず制度の問題としてとらえることが役立ちます。
よくある質問
- 相対的剥奪とは?
- 実際に持っている量ではなく、比較の基準となる人や集団と比べて不当に少ないと感じることから生じる不満や憤りです。
- 相対的剥奪と絶対的剥奪の違いは?
- 絶対的剥奪は生活に必要なものさえ欠けている状態で、相対的剥奪は比較を通じて感じる主観的な欠乏感です。
- 相対的剥奪の例は?
- 『アメリカ兵』では、昇進の早い航空隊の兵士のほうが、昇進がまれな憲兵隊の兵士より昇進制度に不満を抱いていました。
参考文献
- Stouffer, S. A., Suchman, E. A., DeVinney, L. C., Star, S. A., & Williams, R. M., Jr. (1949). The American soldier: Adjustment during army life (Vol. 1). Princeton University Press.
- Smith, H. J., Pettigrew, T. F., Pippin, G. M., & Bialosiewicz, S. (2012). Relative deprivation: A theoretical and meta-analytic review. Personality and Social Psychology Review, 16(3), 203–232. https://doi.org/10.1177/1088868311430825
