あいまいな喪失とは
あいまいな喪失(ambiguous loss)とは、大切な人を失ったのかどうかがはっきりせず、区切り(終結)のないまま続く喪失のことです。死別は悲しくても事実が確かで、葬儀や喪の作業がありますが、あいまいな喪失では「帰ってくるのか、もういないのか」という問いが解けず、悲嘆が凍りついてしまうことがあります。アメリカの家族療法家ポーリン・ボスが理論化しました。
- 提唱者
- ポーリン・ボス(ミネソタ大学)
- 出発点
- 1970年代のベトナム戦争で行方不明になったパイロットの家族の研究
- 代表的な著作
- 『Ambiguous Loss』(1999、邦訳『「さよなら」のない別れ 別れのない「さよなら」』)
- 核心
- 問題は本人ではなく、状況のあいまいさにある
2つのタイプ
| タイプ | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| さよならのない別れ | 身体はないが、心の中では家族として存在している | 行方不明、災害で遺体が見つからない、移住、養子縁組、離婚 |
| 別れのないさよなら | 身体はそばにあるが、心理的にはもう以前のその人ではない | 認知症、脳損傷、依存症、重いうつ病 |
日本での広がり
日本では、東日本大震災(2011年)で家族が行方不明のままの人々を支える枠組みとして、あいまいな喪失の考え方が広く紹介されました。研究者や支援者が中心となり、ボス本人の協力も得ながら支援者向けの研修や資料づくりが進められました。ほかにも、認知症の家族の介護、北朝鮮による拉致被害者の家族、長期の行方不明者の家族などが、あいまいな喪失を生きているといえます。家族全体が喪失に適応していく過程は家族システム論やストレス理論からも理解できます。
通常の悲嘆との違い
あいまいな喪失に苦しむ人は、心が弱いわけではありません。ボスは「区切りをつけられないのはあなたのせいではなく、状況があいまいだからだ」と強調しています。
ボス(2016)によれば、あいまいな喪失は喪の作業を止め、家族の役割や境界を混乱させ、周囲からも喪失として認められにくいという特徴があります。葬儀のような儀式がなく、「もう忘れたら」という言葉がかえって人を傷つけるからです。
回復のための6つのガイドライン
ボス(2006)は、区切りを求める代わりに、あいまいさの中でも生きていく力(レジリエンス)を育てる6つのガイドラインを示しました。
- 意味を見つける:この喪失が自分と家族にとって何を意味するのかを語ってみます。
- コントロール感を調整する:変えられないことを受け入れ、できることに力を注ぎます。
- アイデンティティを再構築する:「私はまだ妻なのか、それとも介護者なのか」という問いに新しい答えを探します。
- 両価的な感情を正常なものと認める:愛情と怒り、希望とあきらめが同時にあるのは自然なことです。
- 愛着を見直す:その人を想い続けながら手放す、「両方とも(both/and)」の考え方を練習します。
- 新しい希望を見いだす:新しい人間関係や生きる目標を少しずつ見つけていきます。
よくある質問
- あいまいな喪失とは何ですか?
- 大切な人がいなくなったのか、まだそばにいるのかがはっきりせず、区切りのないまま続く喪失のことです。
- あいまいな喪失にはどんな例がありますか?
- 震災での行方不明や拉致のような「さよならのない別れ」と、認知症や依存症のような「別れのないさよなら」があります。
- あいまいな喪失とどう向き合えばいいですか?
- ボスは、無理に区切りをつけるより、意味を見つける、両価的な感情を認める、「両方とも」の考え方をもつなど、あいまいさとともに生きる力を育てることをすすめています。
参考文献
- Boss, P. (1999). Ambiguous Loss: Learning to Live with Unresolved Grief. Cambridge, MA: Harvard University Press.
- Boss, P. (2006). Loss, Trauma, and Resilience: Therapeutic Work with Ambiguous Loss. New York: W. W. Norton.
- Boss, P. (2016). The context and process of theory development: The story of ambiguous loss. Journal of Family Theory & Review, 8(3), 269–286.
