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ブライスのパラドックス

🔬 自然科学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
ブライスのパラドックスとは、ドイツの数学者ディートリヒ・ブライスが1968年の論文で示した現象で、運転者がそれぞれ自分にとって最速の経路を選ぶ交通網に新しい道路を加えると、均衡状態ですべての運転者の移動時間がかえって長くなることがあるというパラドックスです。個人の合理的な選択が集団全体には悪い結果をもたらす代表例です。
目次
  1. 1. パラドックスの例
  2. 2. 理論的背景:均衡と無秩序の代償
  3. 3. 実際の事例と実験
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

パラドックスの例

出発点Sから到着点Tへ4,000台が移動し、経路はS→A→TとS→B→Tの2つだとします。S→AとB→Tの区間は(台数)/100分かかり、A→TとS→Bは混雑に関係なく45分かかります。車が半分ずつに分かれれば、どちらの経路も20+45=65分です。ここでAとBを結ぶ0分の近道をつくると、各運転者にとってはS→A→B→Tが常に速いので全員がこの道に集まり、移動時間は40+40=80分に増えます。それでも、誰も単独で経路を変えて得をすることはできないナッシュ均衡です。ブライス(1968年)はこれをドイツ語の論文で発表し、ブライス、ナグルニー、ヴァコルビンガー(2005年)が英訳しました。

理論的背景:均衡と無秩序の代償

ウォードロップ(1952年)は、使われているすべての経路の移動時間が等しくなる「利用者均衡」と、総移動時間を最小にする「システム最適」を区別しました。両者がずれるのは、運転者が自分が他人に与える混雑のコストを考慮しないためで、ピグー(1920年)とナイト(1924年)はすでに道路混雑の問題でこの外部性を論じていました。マーチランド(1970年)はこのパラドックスを交通研究に紹介しました。クツピアスとパパディミトリウ(1999年)は均衡と最適の比を「無秩序の代償」と定義し、ラフガーデンとタルドシュ(2002年)は線形の遅延関数ではその値が最大4/3であることを証明しました。ラフガーデン(2005年)はこれらの研究をまとめています。

実際の事例と実験

コーエンとホロウィッツ(1991年)は、ばねとひも、抵抗とダイオードでつくった機械・電気回路でも、接続を1つ加えるとかえってたわみが大きくなるという同じ構造のパラドックスが現れることを示しました。ユン、ガストナー、チョン(2008年)はボストン、ニューヨーク、ロンドンの道路網を分析し、一部の道路を閉鎖すると全体の移動時間が短くなりうることを示しました。ソウルの清渓川高架道路の撤去後、交通の混乱が予想ほど大きくなかった事例もよく取り上げられます。ラポポートら(2009年)は、実験室での経路選択実験で参加者が実際にパラドックス的な均衡に収束すると報告しました。デュラントンとターナー(2011年)が報告した、道路を増やした分だけ交通量も増えるという「道路混雑の基本法則」も、道路拡張の限界を示すものとしてあわせて論じられます。

よくある質問

ブライスのパラドックスを簡単に言うと?
新しい近道ができると全員がそこに押し寄せ、結果として道ができる前よりも全員の所要時間が長くなってしまうことがある、という現象です。
実際にも起こりますか?
はい。道路網の分析や実験室の実験で確認されており、機械・電気回路でも同じ構造が観察されています。ただし、道路の追加がいつもパラドックスを起こすわけではなく、ネットワークの構造や交通量によって変わります。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Braess, D. (1968). Über ein Paradoxon aus der Verkehrsplanung. Unternehmensforschung, 12(1), 258–268.
  2. Braess, D., Nagurney, A., & Wakolbinger, T. (2005). On a paradox of traffic planning (Translation of Braess 1968). Transportation Science, 39(4), 446–450.
  3. Wardrop, J. G. (1952). Some theoretical aspects of road traffic research. Proceedings of the Institution of Civil Engineers, 1(3), 325–362.
  4. Pigou, A. C. (1920). The Economics of Welfare. London: Macmillan.
  5. Knight, F. H. (1924). Some fallacies in the interpretation of social cost. Quarterly Journal of Economics, 38(4), 582–606.
  6. Murchland, J. D. (1970). Braess's paradox of traffic flow. Transportation Research, 4(4), 391–394.
  7. Cohen, J. E., & Horowitz, P. (1991). Paradoxical behaviour of mechanical and electrical networks. Nature, 352(6337), 699–701.
  8. Roughgarden, T., & Tardos, É. (2002). How bad is selfish routing? Journal of the ACM, 49(2), 236–259.
  9. Roughgarden, T. (2005). Selfish Routing and the Price of Anarchy. Cambridge, MA: MIT Press.
  10. Koutsoupias, E., & Papadimitriou, C. (1999). Worst-case equilibria. In Proceedings of the 16th Annual Symposium on Theoretical Aspects of Computer Science (pp. 404–413). Berlin: Springer.
  11. Youn, H., Gastner, M. T., & Jeong, H. (2008). Price of anarchy in transportation networks: Efficiency and optimality control. Physical Review Letters, 101(12), 128701.
  12. Duranton, G., & Turner, M. A. (2011). The fundamental law of road congestion: Evidence from US cities. American Economic Review, 101(6), 2616–2652.
  13. Rapoport, A., Kugler, T., Dugar, S., & Gisches, E. J. (2009). Choice of routes in congested traffic networks: Experimental tests of the Braess Paradox. Games and Economic Behavior, 65(2), 538–571.

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この記事は2026年10月27日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。