アイデンティティ・ステイタス理論とは
アイデンティティ・ステイタス理論(identity status theory)とは、青年が「自分は何者で、どんな人生を送るのか」という問いにどう向き合っているかを、「探索」と「傾倒」という2つの基準で4つの地位(ステイタス)に分けて説明する理論です。「自我同一性地位」と訳されることもあります。心理学者のジェームズ・マーシャが、エリク・エリクソンのいう青年期の課題「同一性 対 同一性拡散」を研究できるようにするため、1966年に示しました。
- 意味
- 探索と傾倒の有無で、アイデンティティの状態を4つに分ける理論
- 提唱者
- ジェームズ・マーシャ(1966)
- 土台
- エリクソンの心理社会的発達理論
- 最初に評価した領域
- 職業、宗教、政治的な考え方
2つの基準
- 探索(危機):いくつもの可能性を真剣に考え、調べたり試したりした経験があるか
- 傾倒(コミットメント):特定の進路や価値観、信念を選び、それに力を注いでいるか
マーシャは男子大学生に半構造化面接をおこない、職業、宗教、政治の領域でこの2つを評価しました。
4つのアイデンティティ・ステイタス
| 地位 | 探索 | 傾倒 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| アイデンティティ達成 | あり | あり | じっくり悩んだうえで、自分で方向を決めている |
| モラトリアム | いままさに探索中 | まだない | いろいろな道を積極的に模索している |
| 早期完了(フォークロージャー) | なし | あり | 親やまわりの期待を、迷わずそのまま受け入れている |
| 同一性拡散 | なし | なし | 悩むことも決めることもなく、流されている |
親が決めた道を迷わず進むことは、アイデンティティを確立したことになるのでしょうか。マーシャの枠組みでは、「決めている」という点は同じでも、自分で探索したすえに選んだ「アイデンティティ達成」と、探索せずに受け入れた「早期完了」は別の地位です。マーシャの1966年の研究でも、達成の地位にある学生はむずかしい課題でよい成績を示し、早期完了の学生は権威にしたがう考え方を支持する傾向が強いことが示されました。
日本の「モラトリアム」と就活
日本では、精神分析家の小此木啓吾が『モラトリアム人間の時代』(1978年)で、大人になることを先のばしにする若者像を論じ、「モラトリアム」ということばが広く知られるようになりました。ただし、マーシャの理論でいうモラトリアムは、怠けている状態ではなく、積極的に自分を探している健康な時期のことです。インターンシップや自己分析に取り組む就職活動の時期は、まさにこの探索がおこなわれる場面ともいえます。
自分の力への信頼は自己効力感、行動を通して自分を知っていく過程は自己知覚理論、性格の特徴はビッグファイブもあわせてご覧ください。
理論の限界
ステイタスは固定した段階ではなく、領域ごとにちがうこともあれば、大人になってから達成からモラトリアムにもどるなど、変わることもあります。また、最初の研究が男子大学生中心だったことや、個人の選択を重んじる欧米の価値観が反映されていることへの批判もあります。
よくある質問
- アイデンティティ・ステイタス理論とは?
- 探索と傾倒の有無から、青年のアイデンティティの状態を達成・モラトリアム・早期完了・拡散の4つに分けたマーシャの理論です。
- モラトリアムと早期完了のちがいは?
- モラトリアムはまだ決めずに積極的に探索している状態、早期完了は探索せずにまわりの期待をそのまま受け入れて決めている状態です。
- ステイタスは変わりますか?
- はい。領域によってちがうこともあり、人生の変化にともなって何度も変わりえます。
参考文献
- Marcia, J. E. (1966). Development and validation of ego-identity status. Journal of Personality and Social Psychology, 3(5), 551–558.
