洞察学習とは
洞察学習(insight learning)とは、問題を構成する要素どうしの関係を急に新しくとらえなおすことで、解決策を一気にひらめく学習のことです。ゲシュタルト心理学者のヴォルフガング・ケーラーが、1913年から大西洋のスペイン領テネリフェ島の研究所でチンパンジーを観察し、その成果を1917年に刊行した本(英訳『The Mentality of Apes』1925年、邦訳『類人猿の知恵試験』)で広く知られるようになりました。
- 意味
- 状況全体の関係をとらえなおし、解決策を一気にひらめく学習
- 研究者
- ヴォルフガング・ケーラー
- 背景
- ゲシュタルト心理学(全体は部分の総和以上のもの)
- 特徴
- 突然の解決、ほかの場面への転移、長く保たれる
ケーラーのチンパンジー実験
手の届かないバナナを、チンパンジーはどうやって手に入れたのでしょうか。ケーラーは、天井からつるしたバナナや、おりの外に置いたバナナなど、手の届かないところにえさを置いてチンパンジーを観察しました。チンパンジーたちは、あれこれ試してはうまくいかずに動きを止め、まわりを見わたしたあと、箱を積み上げてのぼったり、棒を使ってバナナを引きよせたりしました。とくにスルタンという名前のチンパンジーは、短い棒を2本つないで長い棒をつくり、えさを手に入れたと報告されています。
ケーラーはこれを、たまたまうまくいった結果ではなく、箱や棒を「バナナに届くための道具」という関係のなかで見なおした結果だと解釈しました。
試行錯誤学習とのちがい
| 項目 | 試行錯誤学習(ソーンダイク) | 洞察学習(ケーラー) |
|---|---|---|
| 過程 | 何度も試すうちに少しずつ失敗がへる | 立ち止まって観察したあと、急に解決する |
| 中心となる考え | 刺激と反応の結びつき、結果による強化 | 状況全体の関係の把握(再構造化) |
| 理論の流れ | 行動主義 | ゲシュタルト心理学・認知心理学 |
| 転移 | 似た場面にかぎられやすい | あたらしい場面にも応用しやすい |
行動主義の学習はスキナーのオペラント条件づけや古典的条件づけとくらべてみるとわかりやすいでしょう。
アハ体験と授業
問題がとけた瞬間に「あっ、そうか!」と感じることをアハ体験(aha experience)と呼びます。日本ではテレビ番組などを通じて「アハ体験」ということばが広く知られるようになりました。授業で洞察をうながすには、答えをすぐに教えるのではなく、問題の全体が見わたせるように資料を配置し、考える時間を十分にとり、思いこみから抜け出せるよう別の角度からの問いを投げかけるのが効果的です。ごほうびがなくても頭のなかに知識が蓄えられるという潜在学習も、認知的な学習理論の代表的な例です。
批判
チンパンジーたちが以前に棒や箱を使った経験が影響していた可能性も指摘されています。洞察も過去の経験の上に生まれるものであり、経験と洞察はたがいに相いれないものではありません。
よくある質問
- 洞察学習とは?
- 問題の関係を新しくとらえなおして、解決策を急にひらめく学習で、ケーラーのチンパンジー研究で知られています。
- 試行錯誤学習とのちがいは?
- 試行錯誤はくり返し試すことで少しずつ学び、洞察は状況全体を再構造化して一気に解決します。
- アハ体験とは?
- 解決策が急にひらめいた瞬間の「わかった!」という体験のことです。
参考文献
- Köhler, W. (1925). The mentality of apes (E. Winter, Trans.). Harcourt, Brace & Company. (Original work published 1917)
