発見と代表的な実験
モニンとミラー(2001年)は、参加者が先に性差別的な文に反対したり、マイノリティ出身の応募者を選んだりする機会をもつと、その後で特定の職務には男性や白人のほうが向いていると答える傾向が強まることを示しました。偏見がないという「道徳的資格」を確保した後では、偏見に見えかねない判断をあまり恐れなくなるというのです。エフロン、キャメロン、モニン(2009年)は、2008年のアメリカ大統領選挙の直前にオバマへの支持を表明する機会をもった参加者が、その後で白人を優遇する判断をより下しやすくなることを示しました。カーンとダール(2006年)は、ボランティアを想像するなど善い行いを思い浮かべた消費者が、ぜいたく品をより多く選ぶという「ライセンシング効果」を消費の選択で確かめました。マザールとゾン(2010年)は、エコ製品を購入した参加者が、その後の課題でより多くごまかしや盗みをする傾向を示したと報告しています。
道徳的自己調整と一貫性効果
サクデヴァ、イリエフ、メディン(2009年)は、自分を道徳的な人として描く文章を書いた参加者は寄付が少なく、不道徳な人として描いた参加者は寄付が多くなることを見いだし、人は道徳的な自己像を一定の水準に保とうとするという「道徳的自己調整」のモデルを示しました。メリット、エフロン、モニン(2010年)は、ライセンシングの働き方を、過去の善行が銀行の残高のように貯まる「道徳的クレジット」と、行動の意味を別様に解釈させる「道徳的資格」に分けています。しかし、過去の善行がかえって「自分は善い人間だから善く振る舞い続けなければ」という一貫性効果を生むこともあります。コンウェイとピーツ(2012年)は、過去の行動を抽象的に思い出すと一貫性が、具体的に思い出すとライセンシングが生じやすいと報告し、マレンとモニン(2016年)は二つの効果が分かれる条件を整理しました。コウチャキ(2011年)は、同じ集団のメンバーの善行だけでも免許が生じる「代理ライセンシング」を示しています。
現実への応用と再現性の論争
ティーフェンベックら(2013年)は、集合住宅の住民に水の使用量をフィードバックした現場実験で、水の使用は減ったものの、同じ世帯の電力の使用はかえって増えた結果を、モラル・ライセンシングの可能性として解釈しました。この効果は、環境政策や企業の社会的責任活動、多様性の施策が意図しない逆効果を生みうるという議論につながっています。ブランケン、ファン・デ・フェン、ゼーレンベルフ(2015年)のメタ分析は、91の研究で小さいながら有意な平均効果(d≈0.31)を報告しましたが、ブランケンら(2014年)による3回の再現の試みでは効果を確認できませんでした。その後の大規模な再現研究でも、効果は当初の報告よりずっと小さいか、確認されなかったため、出版バイアスによって効果が過大に見積もられていた可能性が指摘されています。モラル・ライセンシングは、認知的不協和理論と同じく自己像を守ろうとする動機に関わる現象と理解されていますが、その大きさや条件はなお論争中です。
よくある質問
- モラル・ライセンシングを簡単に言うと?
- 善いことをした後に「これで十分だ」と感じ、次は少し善くない行動をしてもかまわないと思ってしまう現象です。運動したから夜食を食べてもいいと考えるのと似た心理です。
- モラル・ライセンシングは確実に証明された現象ですか?
- 初期の研究やメタ分析では小さな効果が報告されましたが、その後のいくつもの大規模な再現研究では、効果はごく小さいか確認されませんでした。そのため現在では、特定の条件でのみ現れうる、議論のある現象と考えられています。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
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- Sachdeva, S., Iliev, R., & Medin, D. L. (2009). Sinning saints and saintly sinners: The paradox of moral self-regulation. Psychological Science, 20(4), 523–528.
- Effron, D. A., Cameron, J. S., & Monin, B. (2009). Endorsing Obama licenses favoring Whites. Journal of Experimental Social Psychology, 45(3), 590–593.
- Mazar, N., & Zhong, C.-B. (2010). Do green products make us better people? Psychological Science, 21(4), 494–498.
- Merritt, A. C., Effron, D. A., & Monin, B. (2010). Moral self-licensing: When being good frees us to be bad. Social and Personality Psychology Compass, 4(5), 344–357.
- Kouchaki, M. (2011). Vicarious moral licensing: The influence of others' past moral actions on moral behavior. Journal of Personality and Social Psychology, 101(4), 702–715.
- Conway, P., & Peetz, J. (2012). When does feeling moral actually make you a better person? Conceptual abstraction moderates whether past moral deeds motivate consistency or compensatory behavior. Personality and Social Psychology Bulletin, 38(7), 907–919.
- Tiefenbeck, V., Staake, T., Roth, K., & Sachs, O. (2013). For better or for worse? Empirical evidence of moral licensing in a behavioral energy conservation campaign. Energy Policy, 57, 160–171.
- Blanken, I., van de Ven, N., Zeelenberg, M., & Meijers, M. H. C. (2014). Three attempts to replicate the moral licensing effect. Social Psychology, 45(3), 232–238.
- Blanken, I., van de Ven, N., & Zeelenberg, M. (2015). A meta-analytic review of moral licensing. Personality and Social Psychology Bulletin, 41(4), 540–558.
- Mullen, E., & Monin, B. (2016). Consistency versus licensing effects of past moral behavior. Annual Review of Psychology, 67, 363–385.
