概念の登場
現代的な意味での企業の社会的責任(CSR)は、経済学者ハワード・ボーエン(1953)が『ビジネスマンの社会的責任』で、ビジネスマンには社会の目標や価値に合致する方針と意思決定を追求する義務があると定義したことで本格的に論じられるようになりました。1960〜70年代に消費者運動、環境汚染、人権問題が大きくなると、企業の影響力にふさわしい責任を求める声が高まりました。
キャロルのCSRピラミッド
アーチー・キャロル(1979, 1991)はCSRを、四つの責任が下から積み重なるピラミッドとして説明しました。
- 経済的責任:社会が求める財やサービスを生産し利益をあげること。他のすべての責任の土台です。
- 法的責任:法律や規制を守って経営すること。社会が「要求する」責任です。
- 倫理的責任:法に定めがなくても正しく公正なことを行い、害を避けること。社会が「期待する」責任です。
- 慈善的責任:寄付、ボランティア、文化・教育支援など、良き企業市民として地域社会に貢献すること。社会が「望む」責任です。
フリードマン論争とステークホルダー理論
ミルトン・フリードマン(1970)は『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』への寄稿で「企業の社会的責任は利益を増やすことである」と主張しました。経営者は株主の代理人なので、株主のお金を社会目的に使うのは一種の課税であり、社会問題は政府と個人が解決すべきだという論理です(エージェンシー理論を参照)。これに対しエドワード・フリーマン(1984)のステークホルダー理論は、企業は株主だけでなく従業員、顧客、取引先、地域社会、環境など企業活動と影響を及ぼし合うすべての利害関係者の利益を考慮してこそ長期的に存続できると考えました。
CSVとESGへの拡張
- 共通価値の創造(CSV):ポーターとクラマー(2011)は、CSRが利益と切り離されたコストとみなされる限界を指摘し、社会課題の解決を事業機会として企業と社会の価値を同時に生み出すCSVを提案しました。製品と市場の見直し、バリューチェーンの生産性の再定義、地域クラスターの育成が三つの方法です。
- ESG:環境(Environmental)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を基準に企業の非財務的な成果を評価する枠組みです。2006年の国連責任投資原則(PRI)以降、投資家の評価基準として定着し、サステナビリティ報告や開示の義務化につながっています。
効果と批判
CSRは企業の評判やブランドへの信頼を高め、優秀な人材の確保やリスク管理に役立つという研究が多くあります。ただしCSRと財務成果の因果関係については研究によって結果が分かれます。実際の行動より広報に偏るグリーンウォッシュ、本業の問題を覆い隠す一過性の寄付、測定基準の不統一が代表的な批判です。研究の分野で同様の責任問題を扱った項目として科学者の社会的責任があります。
関連項目: 社会的経済
参考文献
- Bowen, H. R. (1953). Social Responsibilities of the Businessman. New York: Harper & Brothers.
- Friedman, M. (1970, September 13). The social responsibility of business is to increase its profits. The New York Times Magazine.
- Carroll, A. B. (1979). A three-dimensional conceptual model of corporate performance. Academy of Management Review, 4(4), 497–505.
- Carroll, A. B. (1991). The pyramid of corporate social responsibility: Toward the moral management of organizational stakeholders. Business Horizons, 34(4), 39–48.
- Freeman, R. E. (1984). Strategic Management: A Stakeholder Approach. Boston: Pitman.
- Porter, M. E., & Kramer, M. R. (2011). Creating shared value. Harvard Business Review, 89(1/2), 62–77.