概要
フィリップス曲線(Phillips curve)は、ニュージーランド出身の経済学者A・W・フィリップスが1958年に『エコノミカ』に発表した論文に由来する概念です。フィリップスは1861〜1957年のイギリスのデータから、失業率が低い年ほど名目賃金の上昇率が高く、失業率が高い年ほど賃金上昇率が低いという安定した関係を見いだしました。その後、この関係は失業率と物価上昇率(インフレ率)の関係へと広げて使われるようになりました。
政策メニューとしてのフィリップス曲線
サミュエルソンとソロー(1960)はアメリカのデータで失業率と物価上昇率の関係を描き、政策当局は失業を少し減らす代わりにインフレを少し多く受け入れるといった選択ができると説明しました。1960年代には、フィリップス曲線は財政・金融政策で選べる「メニュー」のように受け止められました。今日でも、中央銀行の政策金利の決定と、それに伴う預金・貸出金利や債券価格の変化を理解する出発点となる概念です。
期待で修正されたフィリップス曲線と自然失業率
フェルプス(1967)とフリードマン(1968)は、労働者と企業が将来のインフレを予想して賃金を決めることを強調しました。政府が拡張政策で失業率を下げると最初は効果がありますが、人々が高まった物価を予想に織り込むと、失業率は再び自然失業率の水準に戻り、インフレだけが高くなるというのです。そのため短期のフィリップス曲線は右下がりですが、長期のフィリップス曲線は自然失業率のところで垂直になると考えます。1970年代の石油危機以降、高い失業と高い物価が同時に現れたスタグフレーションは、この解釈を後押ししました。
限界と論争
インフレを加速させない失業率(NAIRU)は直接観測できず、時期によって変わるため推定の誤差が大きくなります。また多くの国で失業率が大きく下がっても物価があまり上がらず、曲線が「平坦化した」という議論があり、供給ショックが大きいときには関係が大きく揺らぐこともあります。そのためフィリップス曲線は固定した法則というより、期待や供給条件によって動く関係として扱われます。
経済の勉強と試験に生かす
フィリップス曲線は経済学原論・マクロ経済学の授業や、公務員・公企業・金融機関の経済試験でよく出題されるテーマです。短期曲線のシフト要因(期待インフレ、供給ショック)と長期の垂直な曲線の意味をグラフで描けるようにし、失業率と産出の関係を扱うオークンの法則、通貨量と金利を扱う貨幣需要と通貨指標とあわせて学ぶと理解しやすくなります。
出典確認日:2026-10-16
参考文献
- Phillips, A. W. (1958). The relation between unemployment and the rate of change of money wage rates in the United Kingdom, 1861–1957. Economica, 25(100), 283–299.
- Samuelson, P. A., & Solow, R. M. (1960). Analytical aspects of anti-inflation policy. American Economic Review, 50(2), 177–194.
- Phelps, E. S. (1967). Phillips curves, expectations of inflation and optimal unemployment over time. Economica, 34(135), 254–281.
- Friedman, M. (1968). The role of monetary policy. American Economic Review, 58(1), 1–17.