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脱物質主義

🏛️ 政治・行政学 執筆 CampusDown ウィキ編集部 最終更新
脱物質主義とは、経済的に豊かで安全な環境で育った世代が、経済成長や秩序といった物質的価値よりも、自己表現、政治参加、環境、生活の質といった価値をより重視するようになるという理論です。政治学者ロナルド・イングルハートが1971年、ヨーロッパにおける世代間の価値変化を「静かなる革命」と呼んで提示しました。この理論は、先進産業社会に現れた新しい政治的争点や社会運動を説明するために広く用いられてきました。
目次
  1. 1. 二つの仮説
  2. 2. 測定と世界価値観調査
  3. 3. 批判と文化的反動
  4. 4. よくある質問
  5. 5. 参考文献

二つの仮説

イングルハート(1977年)は価値変化を二つの仮説で説明しました。第一の「欠乏仮説」は、人は不足しているものに最も高い価値を置くというものです。飢えや戦争の脅威の中で生きた人々は経済的・身体的な安全を重視しますが、それが満たされると、所属、自己表現、自己実現といった欲求が重要になると考えました。第二の「社会化仮説」は、人の基本的な価値は成長期の環境で形成され、大人になってからはあまり変わらないというものです。そのため価値変化は一人の人間の中でよりも、世代交代を通じてゆっくり起こります。イングルハート(1971年)は、第二次世界大戦後の豊かさの中で育った西ヨーロッパの若い世代が、親の世代よりもはるかに脱物質主義的であるという結果を報告しました。

測定と世界価値観調査

イングルハートは、回答者に「国内の秩序維持」「物価上昇の抑制」「政府の決定に対する市民の発言権の拡大」「言論の自由の保護」のうち最も重要な二つを選ばせ、前の二つを選べば物質主義者、後の二つを選べば脱物質主義者と分類する簡単な指数をつくりました。この測定はその後世界価値観調査に引き継がれ、約100か国の価値変化を追跡するのに使われました。イングルハート(1990年)は先進国で脱物質主義者の割合が着実に増えたと報告し、イングルハートとベイカー(2000年)は、近代化が価値を変える一方で宗教的・文化的伝統の影響も長く残ることを示しました。この理論は、環境運動や女性運動といった新しい社会運動や緑の党の登場を説明する根拠としても使われました。

批判と文化的反動

クラークとダット(1991年)は、脱物質主義指数が物価の項目に大きく依存しているため、失業率のような短期的な経済状況によって揺れ動くと批判しました。イングルハートとエイブラムソン(1994年)は、経済状況を統制しても世代効果は残ると反論しました。また、物質主義と脱物質主義を一つの軸でとらえるのは単純化しすぎだという指摘もあります。近年ノリスとイングルハート(2019年)は、脱物質主義的価値の広がりが、それに不安を感じた高齢世代や保守層の「文化的反動」を招き、トランプの当選やブレグジットのような権威主義的ポピュリズムの伸長につながったと主張しました。このように脱物質主義理論は、近代化論とともに価値変化と政治変動を結びつける代表的な理論として論じられています。

よくある質問

脱物質主義を簡単に言うと?
生活の心配がない豊かな環境で育った人々は、お金や安全よりも自由、参加、環境、生活の質といった価値を重視するようになる、という考え方です。この変化は主に世代が入れ替わるにつれてゆっくり起こると考えます。
脱物質主義はどのように測定しますか?
秩序維持、物価の抑制、市民の発言権の拡大、言論の自由のうち最も重要な二つを選ばせる方法が代表的です。前の二つを選べば物質主義者、後の二つを選べば脱物質主義者と分類します。

出典確認日:2026-10-26

参考文献

  1. Inglehart, R. (1971). The silent revolution in Europe: Intergenerational change in post-industrial societies. American Political Science Review, 65(4), 991–1017. 脱物質主義的な価値変化を初めて示した論文で、理論がどのような観察から出発したかを知りたいときに参考になります。
  2. Inglehart, R. (1977). The Silent Revolution: Changing Values and Political Styles Among Western Publics. Princeton, NJ: Princeton University Press. 欠乏仮説と社会化仮説を体系的にまとめた代表的な著書で、理論の二つの柱を理解するのに参考になります。
  3. Inglehart, R. (1990). Culture Shift in Advanced Industrial Society. Princeton, NJ: Princeton University Press. 多くの国の長期データで価値変化を確かめた本で、理論の実証的根拠を幅広く見るのに役立ちます。
  4. Clarke, H. D., & Dutt, N. (1991). Measuring value change in Western industrialized societies: The impact of unemployment. American Political Science Review, 85(3), 905–920. 脱物質主義指数が失業のような短期的な経済状況に左右されるという測定上の批判で、指標の限界を検討するのに参考になります。
  5. Inglehart, R., & Abramson, P. R. (1994). Economic security and value change. American Political Science Review, 88(2), 336–354. 測定批判に答え、経済的安定と価値変化の関係を再検討した論文で、論争の両側をあわせて見るのに役立ちます。
  6. Inglehart, R., & Baker, W. E. (2000). Modernization, cultural change, and the persistence of traditional values. American Sociological Review, 65(1), 19–51. 近代化とともに価値が変わりながらも文化的伝統が残るという分析で、世界の価値マップを理解するのに参考になります。
  7. Norris, P., & Inglehart, R. (2019). Cultural Backlash: Trump, Brexit, and Authoritarian Populism. Cambridge: Cambridge University Press. 脱物質主義の広がりへの反発が権威主義的ポピュリズムにつながったという主張を収めており、最近の政治と結びつけて考えるのに役立ちます。

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この記事は2026年10月27日に最終更新されました。内容は広く知られた原典と教科書に基づいて整理していますが、レポートで引用する際は参考文献の原典を必ず確認してください。