ロールズの正義論とは
アメリカの哲学者ジョン・ロールズは、1971年の『正義論(A Theory of Justice)』で、憲法や経済・財産制度など社会の基本構造が従うべき正義の原理を示しました。彼はこれを「公正としての正義」と呼びました。公正な手続きで合意された原理なら、その結果も正義にかなうという考え方です。
📌 ひと目でわかる
- 提唱者
- ジョン・ロールズ(1971年『正義論』)
- 核心
- 無知のヴェールの下、原初状態で合意される原理が正義である
- 二原理
- 平等な自由の原理、公正な機会均等原理と格差原理
- 批判者
- ロバート・ノージック(リバタリアニズム)、マイケル・サンデル(コミュニタリアニズム)
原初状態と無知のヴェール
ロールズは思考実験を提案します。社会のルールを決める人々が、自分の性別・人種・財産・才能・価値観をまったく知らないと想像するのです。この仮想の状況が原初状態、自分の情報を覆い隠す装置が無知のヴェールです。
ケーキを切る人が最後に取るルールにすれば、切る人は公平に切ろうとします。無知のヴェールはこの発想を社会全体に広げたもので、自分が最も不利な立場になるかもしれないからこそ、その人でも受け入れられるルールを選ぶのです。
正義の二原理
| 原理 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 第一原理:平等な自由 | すべての人が良心・表現・政治参加などの基本的自由を平等にもつ | 多数の利益のためでも言論の自由は奪えない |
| 第二原理(a):公正な機会均等 | 地位や職務は公正な条件のもとで全員に開かれている | 形式だけでなく教育機会などの実質的な条件も保障 |
| 第二原理(b):格差原理 | 社会的・経済的不平等は、最も恵まれない人の利益を最大にする場合にのみ許される | 累進課税で財源を確保し低所得層を支援 |
原理には優先順位があり、第一原理が第二原理に、公正な機会均等が格差原理に優先します。
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マキシミン・ルールと功利主義批判
原初状態の人々は、最悪の結果が最もましな選択肢を選ぶ(マキシミン・ルール)とロールズは考えました。だから平均的な幸福を最大化する功利主義ではなく、最も不利な人の状態を最大限よくする格差原理を選ぶというのです。ロールズは、功利主義は「個人の別個性を真剣に受け止めていない」と批判しました。
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批判:ノージックとサンデル
- ロバート・ノージック(1974):正当に得た財産を国家が再分配することは個人の権利の侵害だと主張しました(権原理論、リバタリアニズム)。
- マイケル・サンデル(1982):無知のヴェールの背後にいる「負荷なき自己」は、共同体や歴史の中で生きる現実の人間からかけ離れていると批判しました。日本ではNHK「ハーバード白熱教室」で広く知られるようになりました。
社会制度の中のロールズ
- 累進課税と社会保障:所得が高いほど税率を上げ、生活保護などで最も恵まれない人を支える仕組みは、格差原理で説明されることがあります。
- 機会の平等:経済的理由で進学できない若者を支える給付型奨学金や授業料減免は、公正な機会均等の考え方と結びつきます。差別是正策については積極的差別是正措置も参照してください。
- 普遍主義と選別主義:福祉の普遍主義と選別主義の議論も正義論の視点から考えられます。
よくある質問
- 無知のヴェールとは何ですか?
- 社会のルールを決めるとき、自分の性別・財産・才能・価値観などを知らないと仮定する装置です。自分だけに有利なルールを選べなくなります。
- 格差原理とは何ですか?
- 社会的・経済的不平等は、それが社会で最も恵まれない人々に最大の利益をもたらす場合にのみ正当化される、という原理です。
- ロールズと功利主義の違いは?
- 功利主義は幸福の総量や平均を最大にしようとしますが、ロールズは基本的自由を優先し、最も不利な人の状況改善を重視します。
参考文献
- Rawls, J. (1971). A Theory of Justice. Cambridge, MA: Harvard University Press.
- Rawls, J. (2001). Justice as Fairness: A Restatement (E. Kelly, Ed.). Cambridge, MA: Harvard University Press.
- Nozick, R. (1974). Anarchy, State, and Utopia. New York: Basic Books.
- Sandel, M. J. (1982). Liberalism and the Limits of Justice. Cambridge: Cambridge University Press.
- Wenar, L. (2008, rev. 2025). John Rawls. In E. N. Zalta & U. Nodelman (Eds.), Stanford Encyclopedia of Philosophy. plato.stanford.edu
