概要
アンダーセン医療利用モデル(Andersen's Behavioral Model of Health Services Use)は、社会学者ロナルド・アンダーセンが1968年、シカゴ大学保健管理研究センターの報告書で初めて示したモデルです。当初は家族単位の医療利用を説明しようとしたものでしたが、その後個人単位に改められ、公衆衛生学と社会福祉学で最も広く使われる医療利用の分析枠組みになりました。医療利用は病気だけでなく、個人の特性や資源、制度環境が組み合わさった結果であることを示しています。
三つの要因
- 素因要因(predisposing):病気になる前から存在し、医療利用の傾向に影響する特性です。年齢や性別などの人口学的特性、教育・職業・人種などの社会構造的特性、医療と病気に対する態度や知識などの健康信念が含まれます。
- 可能化要因(enabling):医療の利用を可能にしたり妨げたりする資源です。所得、医療保険、かかりつけ医療機関などの個人・家族の資源と、地域の医療従事者・施設、交通などの地域社会の資源があります。
- ニーズ要因(need):医療利用の最も直接的な原因です。本人が感じる症状や健康状態(主観的ニーズ)と、医師が診断した疾病や障害(評価されたニーズ)に分かれます。
一般にニーズ要因が医療利用を最も強く説明し、素因・可能化要因は利用の有無や量の違いを生みます。
モデルの発展
- 第1段階(1968):三つの要因が順に医療利用に影響するという基本モデルです。
- アンダーセン=ニューマン・モデル(1973):医療制度の特性(政策、資源、組織)と社会的決定要因(技術、社会規範)を外側の層として加え、医療サービスの種類ごとに利用を区別しました。
- 1995年改訂モデル:外部環境、個人の健康行動、健康アウトカム(主観的健康、評価された健康、利用者満足)を加え、アウトカムが再び要因に影響するフィードバックを組み込みました。アンダーセンは、このモデルが医療アクセスの評価に今も有用だと論じました。
公平性の評価と活用
アンダーセンは、医療利用が主にニーズ要因と年齢・性別などの人口学的要因で説明されれば公平なアクセス、所得や保険などの可能化要因や社会構造的要因が大きく作用すれば不公平なアクセスだと考えました。そのためこのモデルは健康格差の研究や医療保障政策の評価によく使われます。
- 研究例:高齢者の外来・入院利用、介護保険の利用意向、慢性疾患患者の医療利用、移民や障害者の未充足医療の分析
- 限界:要因が多すぎて変数の選び方が研究ごとに異なり、社会関係や文化、医療提供者の影響を十分に説明できないという批判があります。健康行動の変容を計画する際には、PRECEDE-PROCEEDモデルなどの別の枠組みと併用されることもあります。
参考文献
- Andersen, R. (1968). A Behavioral Model of Families' Use of Health Services (Research Series No. 25). Chicago: Center for Health Administration Studies, University of Chicago.
- Andersen, R., & Newman, J. F. (1973). Societal and individual determinants of medical care utilization in the United States. Milbank Memorial Fund Quarterly: Health and Society, 51(1), 95–124.
- Andersen, R. M. (1995). Revisiting the behavioral model and access to medical care: Does it matter? Journal of Health and Social Behavior, 36(1), 1–10.