起源と意味
英国の経済学者チャールズ・グッドハート(1975年)は、イングランド銀行が通貨量を目標に管理しはじめると、それまで安定していた通貨量と物価・所得の関係が崩れたことを観察しました。彼は「観察された統計的規則性は、統制の目的で圧力をかけた途端に崩れる傾向がある」と書きました。金融機関や市場参加者が新しい規制に合わせて行動や商品を変えたからです(通貨指標を参照)。人類学者マリリン・ストラザーン(1997年)は英国の大学評価を分析し、これを「測定が目標になると、それはもはやよい測定ではなくなる」という文に一般化し、この表現が今日広く知られた形です。同じ頃、ルーカス批判(1976年)は、政策が変わると人々の期待と行動が変わって過去の関係が保たれないというマクロ経済学的な論理を示しました。
キャンベルの法則とインセンティブ理論
社会心理学者ドナルド・キャンベル(1979年)は、「定量的な社会指標が社会的意思決定に使われるほど、腐敗の圧力を受け、それが監視しようとした社会過程をゆがめる」というキャンベルの法則を示しました。経営学ではスティーブン・カー(1975年)が「Bを望みながらAに報いる愚かさ」として同じ問題を指摘しました。経済学的には、ホルムストロームとミルグロム(1991年)のマルチタスクエージェンシー・モデルがこれを説明します。仕事が複数の次元をもつのに一部だけを測定・報酬の対象にすると、人々は測定される課業に努力を集め、測定されない課業をおろそかにします。そのため強い成果給が常によいとは限りません。マンハイムとガラブラント(2018年)は、グッドハート効果を、指標と目標の偶然の相関が極端で崩れる場合、因果構造を誤解した場合、行為者が指標を意図的に操作する場合などに分類しました。
事例と現代的な論点
ビーヴァンとフッド(2006年)は、英国の医療制度における救急外来4時間待ちの目標などで、数値は改善したものの患者を救急車に待たせるといった「ゲーミング」が現れたと報告しました。ジェイコブとレヴィット(2003年)は、シカゴの公立学校で高い利害を伴う試験が導入された後、教師による答案操作を統計的に見つけ出しました。学界でも論文数や有意な結果に報いる制度が悪い研究慣行を広めるという分析があります(スマルディーノとマケルリース、2016年)。ジェリー・ミュラー(2018年)はこうした現象を「測りすぎ(測定の専制)」として批判しました。近年では、人工知能で報酬モデルを過度に最適化すると実際の品質がかえって下がる「報酬ハッキング」がグッドハートの法則の事例として研究されています(ガオら、2023年)。だからといって測定を捨てるのではなく、複数の指標を併用し、妥当性を点検し、KPIを定性的な判断と組み合わせる方法が議論されています。
よくある質問
- グッドハートの法則とキャンベルの法則は同じですか?
- 非常によく似ています。グッドハートは金融政策の統計的関係が目標化されると崩れる点から、キャンベルは社会指標が意思決定に使われると腐敗・歪曲の圧力を受ける点から出発しました。
- では業績指標は使うべきではないのですか?
- いいえ。指標は依然として有用ですが、一つの指標に大きな報酬をかけるより、複数の指標と質的評価を併用し、指標が操作されていないか継続的に点検することが重要です。
出典確認日:2026-10-26
参考文献
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- Holmström, B., & Milgrom, P. (1991). Multitask principal–agent analyses: Incentive contracts, asset ownership, and job design. Journal of Law, Economics, and Organization, 7, 24–52.
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